News Daddyというニュース動画の記事を読んだ。アメリカの大学生に「最近どこでニュースを知った?」と尋ねると、返ってくる答えはほぼ決まって、TikTok、Instagram、そしてNews Daddyだそうだ。新聞やテレビの名前は、もはや会話に出てこないという。これは、日本でも、新聞やテレビに接触しない若者が増えているから事情は同じだろう。
イギリスから世界に向けて語りかける26歳の男がいる。Dylan Pageという男だ。News Daddyと呼ばれるその人物は、TikTokで16億回以上の「いいね」を集め、1790万人のフォロワーを抱える巨大なニュース発信源となっているらしい。自分のTikTokアカウントで確認してみたが、金髪の若者だ。ニュースだけではなく、様々なトピックスの動画を投稿している。テンポのいい語り口で、ニュース、国際情勢から旅行、ポップカルチャーまでを語っている。
Pageが投稿を始めたのは2020年8月だそうだ。そして、今や彼はZ世代のCNNになりつつあると記事にはでていた。このあたりは英語話者の強みだ。コンテンツの多くは伝統的メディアを情報源にしているものの、短尺動画として再編集し、ユーザーが理解しやすい語りへ変換する。学生にもすぐに理解できるニュースアグリゲーターになっているようだ。
記事によれば、Inside Higher EdとGeneration Labが2024年末に行った調査では、アメリカの大学生の4分の3近くがソーシャルメディアをトップニュース源としており、そのうち半数がInstagramやTikTokを正確な情報を届けてくれるとある程度信頼していると回答したそうだ。伝統的な新聞を定期的に読む学生はわずか2割にすぎない。日本でも2025年の調査で、SNSを毎日利用する大学生は91.3%に達しているから事情は同じだろう。
かつての構造は「メディア→記事→読者」だった。今の構造は「アグリゲーター(News Daddy)→SNSフロー→ユーザー」へと変わった。メディア企業が直接ユーザーへ届けるのではなく、語り手とアルゴリズムが編集権を握る新構造が生まれたということだ。TikTokやInstagramのレコメンドは、ニュース性よりも視聴完了率、コメント密度、感情反応を重要視する。つまり、ニュース価値は報道の重要度ではなく反応率で選ばれる。
この現象から、若者のニュース行動には明確な特徴があることが分かる。長文より語りのテンポを優先し、ニュースの編集に個性を求める。情報に自分の文脈が乗ってくることを好み、専門メディアの編集や語り口より、インフルエンサーの距離の近さを信用するということのようだ。つまり、中立よりも親しみやすさが信頼のベースになっている。
だが、「アグリゲーター→SNSフロー→ユーザー」の構造には大きな欠陥がある。センセーショナルな見出しのニュースは拡散されるが、地味な続報や内容の訂正はアルゴリズムに選ばれないからだ。これでは、誤報が拡散し、ニュースの意味を考えるチャンスも失われる。NewsGuardの調査では、TikTokで取り上げられた世界の重大ニュースを扱う動画の約20%に誤情報が含まれていたという。
このニュースのフローにAIが加わると、アグリゲーターの役割はさらに強化される。ユーザーは怒りやすい話題、興味を持つ政治領域、不安を抱える社会問題をAIに学習され、感情ごとにカスタムされたニュースが配信されるようになる。典型的なフィルターバブル現象だ。社会全体で共有されるべきニュースが減り、特定のニュースや情報だけが流通して拡散される。これは、悪夢だ。
News Daddyは、メディア業界にとって悪夢や脅威であり、ニュースの未来を見せるショールームだ。メディアは記事やコンテンツの内容の競争から流通の競争へと移行する。信頼性は「中立性」ではなく「人格性」の時代へ入り、News Daddyのようなフロントを持つAIアグリゲーターがニュースの最初の接触点になるだろう。
これからのメディアは、記事の質やメディアブランドよりも、流通と文脈をつくる語り手とその背後のアルゴリズムが支配力を持つようになることが、News Daddyの記事から読み取れる。ニュースは探すものではなく、流れてくるものへ。そして、ニュースを届けるのはメディア企業ではなく、アグリゲーターとアルゴリズムの結合体になる。News Daddyの台頭は、その未来の予告編だ。
