Gemini 3とNano Banana Proが登場して大きな話題になっている。Gemini 3は前世代のGemini 2.5から約8ヶ月での登場となり、推論能力、マルチモーダル理解、そして自律的なタスク実行において大幅な進化を遂げたようだ。100万トークンという膨大なコンテキストウィンドウを持ち、テキスト、画像、動画を横断的に理解する。数学、科学知識、コーディング、事実の正確性で、あらゆるベンチマークで前世代や他のAIモデルを凌駕している。これについては、記事やYouTubeに解説が溢れている。
この結果と思われるが、Alphabetの株価が史上初めて300ドルを突破し、6%以上の急騰を見せた。理由はシンプルだ。Gemini 3が公開されたからだ。
マーケットには興味はないが、調べてみると、同社の株価は302.87ドルに達し、一時は304ドル近くまで上昇。取引量は2370万株を超え、時価総額は約2兆9400億ドルに到達した。この数字が示すのは、投資家たちがGoogleのAI戦略を単なる技術革新ではなく、ビジネス上の転換点として評価し始めたという事実だろう。
記事によると、D.A. Davidsonのアナリストは、このモデルを「真に強力なモデル」「現時点での最先端」と評価し、「特定の領域において、この世代のフロンティアモデルに通常期待される水準を大きく超える能力を持っている」と述べたようだ。さらに注目すべきは、Gemini 3 Deep Thinkと呼ばれる強化推論モードの存在だ。このモードは複雑な問題解決能力をさらに押し上げ、Humanity’s Last Examで41.0%、GPQA Diamondで93.8%、ARC-AGI-2では前例のない45.1%を達成している。この数字も他のAIモデルとの比較が多くのメディアが記事にしているが、確かに圧倒的だ。
GoogleのAI戦略は、OpenAIなど競合との直接対決ではなく、既存の検索・ブラウザのエコシステムへの組み込みにある。Gemini 3は、Google検索、Geminiアプリ、企業向けサービス、開発者プラットフォーム、そして新たなエージェント「Google Antigravity」全体に統合されている。検索におけるAI Overviewsはすでに月間20億人のユーザーに提供され、Gemini AIアシスタントアプリは6億5000万人の月間ユーザーを抱えるらしい。加えて、Google Cloudの顧客の70%以上がAIサービスを利用しており、1300万人の開発者が生成AIモデルを使ってプロダクトを構築していると記事にはあった。つまり、Googleの既存サービス上でGeminiがすでに稼働して、実務に利用されているということだ。
この実績は、OpenAIにはない強みだ。OpenAIがゼロから、このようなビジネスでの利用を進めるにはもう少し時間がかかるだろう。
Gemini 3 Proをベースとした画像生成モデル、Nano Banana Pro登場した。このモデルは、テキスト生成の精度向上、4K解像度対応、そしてプロフェッショナル向けの高度な編集機能を備える。画像内に読めるテキストを生成できるようになったこと、単一生成で完全なインフォグラフィックを作成できることは、従来のAI画像生成ツールの弱点を克服するものだ。最大14枚の画像をブレンドし、5人までのキャラクターの一貫性を保つことも可能になったようだ。画像生成モデルはMidjourney以外はあまり使っていないからよく分からない。
マーケティング的に優れているのは価格体系だ。無料ユーザーもアクセス可能だが、利用制限に達すると自動的に旧Nano Bananaモデルに切り替わる。1080pまたは2K画像は0.139ドル、4K画像は0.24ドルで生成でき、有料プランのユーザーはより高い生成上限を得られる。Google AI UltraプランではAI検出の透かしを視覚的に非表示にできるが、見えない形でのSynthIDマーカーは埋め込まれ続ける。典型的なフリーミアムだ。
Google Workspaceへの統合戦略の効果
2025年1月に発表されたGoogle WorkspaceへのGemini機能標準統合は、市場のゲームルールを変える動きだ。Gmail、Googleドキュメント、スプレッドシートといった日常業務ツールに、追加コストなしでAI機能が標準搭載される流れは、有償アドオンモデルを採用するMicrosoft Copilot(1ユーザーあたり月額約4,700円)と比べて圧倒的なコスト優位性を実現する。これは単なる機能追加ではなく、中小企業市場への本格参入を意味している。
KDDI、ソフトバンク、NTTデータといった大手システムインテグレーターや通信事業者との連携強化により、業界・業務別ソリューションの導入コンサルティングも拡充されている。こうした動きは、AIを抽象的な研究技術から日常生活に深く入り込むものへと変える「パーソナルAI」の時代の到来を示している。
GoogleのAI戦略は、激化する競争と規制強化という二つの課題に直面している。OpenAIは消費者向けでリードを保ち、企業向けは群雄割拠の状態が続く。しかしGoogleの強みは、既存エコシステムの規模と、そこに埋め込まれたAIの利用頻度にある。検索、YouTube、Gmail、Maps、Android、これらすべてがGeminiの展開基盤となり、ユーザーは意識せずともAIの恩恵を受ける構造が出来上がっている。それは、知らないうちに自然にGeminiを使って慣れて行くという戦略だ。そうなると、もはやGeminiにロックインされ、学習コストを考えると、他のAIサービスに乗り換えが難しい。懸念があるとすれば、Apple intelligenceが普及して、多くのB2Cユーザーが、そちらに慣れてしまうことだろう。
