デジタル化の波が、「手紙」を奪おうとしている。今年に入り、デンマークで、国営郵便事業「ポストノルド(PostNord)」が手紙の配達サービスを年内に終了すると発表した。これは、海外の話だが、日本の郵便事業にも予想される事態だ。。
デンマークは、OECDの「デジタル政府指数」で韓国に次ぐ世界第2位に位置する、極めてデジタル化が進んだ国だ。政府の「デジタル・バイ・デフォルト(デジタルを既定とする)」政策のもと、公的機関とのやりとりは10年以上前から電子化されている。この徹底したデジタル化が、郵便事業に大きな影響を与えた。
2000年以降、デンマーク国内の手紙の取扱量は90%以上も激減し、国民が受け取る手紙は1人あたり平均して月に1通程度にまで落ち込んでいたそうだ。街中の赤いポストは次々と撤去され、手紙を送った記憶がないという若者も普通だ。これも、日本でも進んでいる現象だ。
さらに、2024年の郵便市場の自由化に伴う消費税(VAT)の適用により、手紙1通あたりの料金は4.55ドル(約690円)にまで高騰した。日本でも郵便料金の度重なる値上げで、手紙を送ること自体が、経済的にも非効率な行為となっているのは同じだ。
こうした状況下で、ポストノルドは手紙事業の撤退を決定し、収益性の高い小包事業に経営資源を集中させる道を選んだのだそうだ。
日本は郵便事業においても、デンマークと同様の課題が進行していることは明らかだ。
総務省のデータによると、2001年度に262億通以上あった国内の郵便物数は、2023年度には142億通まで減少した。手紙やはがきなどの「通常郵便物」に限れば、減少率はさらに顕著だ。
この減少の要因は、やはりデジタル化だ。請求書・明細書が電子化され、多くの企業が、紙の請求書からメールやウェブサイトでの確認に切り替えている。
個人間のやりとりは、SNSや電子メールの普及の結果、LINEやSNS、メールが主流となり、手紙を書く機会はほとんどなくなってきた。
日本郵便は、この時代の変化に対応するため、すでにいくつかの対策を講じている。まず、土曜日の配達休止だ。2021年10月以降、土曜日の普通郵便の配達が原則として休止された。また 速達以外の郵便物の配達日数が繰り下げられ、段階的に延びている。
デンマークが「手紙の終焉」を迎えたのは、日本の約5〜10年先を行くデジタル化があったからだ。この見方に基づけば、日本でも2030年代には郵便事業の大きな転換期を迎える可能性があるだろう。
普段の郵便によるやりとりだけでなく、最近は年賀状仕舞いという事も増えてきた。将来は、「昔は手紙というものがあって」という様な話をすることになるのだろう。