Publicis Groupeは2025年第3四半期、前年比5.7%の成長(35億ユーロ)を達成し、通期見通しを上方修正した。世界的に低調な広告市場が続く中でPublicis Groupeが唯一勝ち続けているのは、AIを核とした経営転換による明確な差別化だそうだ。
Publicisの新たな成長ドライバーは自社開発の「CoreAI」プラットフォームだという。2024年の導入以来、このAI基盤が、今年のすべてのピッチを勝ち取ったとされるほど、営業・制作・データ活用のすべてを統合しているそうだ。特筆すべきは、多くの広告主がコンペなしでPublicisを選ぶようになった点だという。これはAIが、従来型のアイデア勝負を超え、クライアントにデータドリブンな広告業務という信頼性を与えているのだろう。
CoreAIは、Publicisが持つ顧客IDや配信実績、制作物などの巨大なデータ群をひとつに束ね、その上で生成AIや予測モデルを走らせて、調査・戦略設計からメディア配分、クリエイティブ制作、運用・レポーティングまでを同じ頭脳で同期させる運用OSだと説明されている。
社内のチャット型アシスタントに目標や広告主のオリエンテーションを投げると、根拠データに基づくプランや配分、クリエイティブのバリエーション案が即時に返り、結果に応じて自動で学習・再配分される。 また、Adobe Fireflyなどの商用可能な生成AIと直結しているため、大量のパーソナライズ表現を広告主のルールに基づいた上で量産できるのが実務上の強みで、スピード、一貫性、ガバナンスを同時に引き上げるという。 要するに、これまでは細切れの「データ→意思決定→制作→配信→検証」を一気通貫で回し、学習を次の実行へ自動的に反映する統合エンジンがCoreAIだと考えられる。
確かに、「データ→意思決定→制作→配信→検証」を一気通貫でというのは、従来の広告業務でも理想とされてきたが、現実には実現が難しかった。それをAIの力を借りて実現したといことのようだ。
このPublicisのAI戦略は単なる業務効率化ではない。データ、テクノロジー、クリエイター・ネットワークを結びつけ、メディア、制作、コンサルティングを横断する「接続型エコシステム」を築き上げているところがすごいことだ。
同社のコネクテッド・メディア事業の80%がAIで駆動されており、収益構成はコネクテッド・メディアが60%、クリエイティブが25%、コンサルティングが15%を占めるという。Publicis SapientとNvidiaの提携によって、生成AIとエージェントネットワークの構築支援も加速しているから、単純なAIのユーザーのレベルを超えようとしていることが驚きだ。AIが広告だけでなく広告主のビジネスモデル変革そのものを支える段階へと進化していくかもしれない。
AIを用いてインフルエンサーやコマース領域とメディアを統合することで、Publicisは、スーパーボウルのようなモンスターテレビ番組並みの広告リーチをわずかなコストで実現するプラットフォームを構築したと公言している。これは、従来の大量露出型メディアモデルを代替し得る新たなメディア戦略の提案が可能になっているということだ。広告メディア購入業務の力の重心が、メディア枠から、消費者の行動と意味の分析に基づくように移っていることを示している。
Publicisの成功は、広告業界が「AI × データ × クリエイティブ・エコノミー」という新しい三位一体モデルへ移行している象徴だろう。
以下の3つの変化が特に重要だ。
- ピッチ文化の再編:提案競争よりも、リアルタイム最適化力が重視される。
- 価値の源泉の転換:メディア枠の買付から、顧客データとAIモデルの精度へ。
- クリエイティブの再定義:生成AIとインフルエンサー・ネットワークが融合し、「人×AI」が共同でブランド体験を設計する時代に。
Publicisは広告持株会社というより、Nvidiaの提携など、もはや「AI接続型マーケティング・インフラ企業」として市場をリードしていると言える。広告ビジネスの競争軸が、創造力からAIが創造をどう拡張できるかへと明確にシフトした。