Sora 2炎上

by Shogo

OpenAIが2025年9月30日に発表した動画生成AI「Sora 2」が炎上している。問題は、生成映像に他者の著作物や実在人物を模倣したコンテンツが含まれていたことだ。いわゆる「ディープフェイク型の著作権侵害」だ。

いくつかの記事を読んで分かったのは、OpenAI はこのような出力を基本的に「許可制(オプトイン)」ではなく「除外制(オプトアウト)」方式としているということだ。つまり、著作権者側が「うちのキャラクターを生成不可としてください」と申請しない限り、生成可能な状態になる。これは事実上、著作権者の対応を前提とした設計だというのだから驚く。

ただし、Disney や Marvel のような大手 IP についてはあらかじめブロックがかかっており、選別的な対応が行われているようだ。これは、米国で訴訟リスクの高い権利者に対しては先手を打つ一方、日本を含む多くの国では「申請しなければ利用可能」という姿勢をとっているということだ。このために、著作権で保護された素材を使用して動画生成が可能になる仕組みだ。この方式により、「鬼滅の刃の炭治郎とドラゴンボールの孫悟空が戦っている動画」といったプロンプトで、実際のキャラクターと酷似した映像が音声まで忠実に再現されて生成されてしまう。

これは単なる技術的な見落としではなく、OpenAIの意図的な戦略である可能性が高いと見られているようだ。OpenAIは訴訟リスクの高い米国の巨大IPホルダーには「配慮」する一方で、日本のIP企業に対してはオプトアウト申請の負担を押し付ける形となっている。

三つの法的課題

1. 肖像権・著作隣接権の複合的侵害

Sora 2の「カメオ」機能は、短時間の動画と音声から個人の肖像と声を高精度で再現し、任意のシーンに挿入することを可能にする。この技術は日本においては肖像権やパブリシティ権に直結し、さらに声の複製は著作隣接権(実演家の権利)にも関わる。

日本で同様の行為を行えば、肖像権やパブリシティ権に加えて複製権・公衆送信権の侵害を問われる可能性が高く、利用者が法的リスクを負う構造になっている。一方、米国では表現の自由の原則下で政治家のパロディ動画などが許容される文化的差異がある。このあたりは、著作権の運用や概念に違いがあることも要因のようだ。

2. 同一性保持権とリミックス文化の衝突

Sora 2アプリは「生成」「リミックス」「発見」を前提とした設計となっており、他者の作品を自分仕様に変更することが自然に行われる環境を提供している。しかし、日本の著作権法には著作者人格権の一つである同一性保持権(20条)が存在し、これは著作者の意に反する改変を禁じる強い権利で、契約による放棄もできない。

米国ではパロディが「フェアユース」原則に基づいて著作権侵害にならない場合があるが、日本では同一性保持権により、リミックス文化を前提としたSora 2の利用環境が法的衝突を生む大きな要因となっている。

3. AI生成物の著作権帰属の空白地帯

これまで日本の文化庁は「AI生成物は著作権の対象外」としていたが、現在は「AIを道具として人が創作的に関与すれば著作物と認められる一方、完全自動生成は対象外」という立場に修正している。つまり「グレーゾーン」でケースごとに判断される整理となっている。このあたりは、AI生成が新しいもので、法の整備が追いついていないということだ。

しかし、OpenAIは、著作権を主張せず、ユーザーが生成物を「自分の作品」として主張できる仕組みを利用規約で保証しているという。これにより、高度な映画的作品が簡単に生成される世界では、著作権対象外と著作物との空白を放置すれば商用利用や二次利用のトラブルが増加することが予想される。

今後のメディア・コンテンツ産業へ影響

1. 創作者の経済基盤の侵食

実写と区別がつかない、ディープフェイク技術の進化により、従来のコンテンツ制作における人材コストが大幅に削減される一方、実在のクリエイターや声優の経済的価値が毀損される可能性が高いだろう。AI生成動画市場は2023年の10.54億ドルから2033年には74.525億ドルに達すると予測されており、CAGR21.6%で成長する見込みである。すでに、映画やテレビ番組、CMでの使用も始まっている。

2. 信頼性の危機とメディアリテラシーの課題

もっと大きな問題は、ディープフェイクによる偽情報の拡散は、社会全体の情報信頼性を根本的に揺るがすだろうということだ。特に政治家や著名人の偽映像が拡散されることで、誤った情報が広まり、社会的混乱を引き起こす可能性がある。

「本物と見分けがつかない」精度に達したSora 2の生成能力は、悪用されれば、メディア全体の信頼性を低下させる危険性を持つ。特に政治的利用については大きなリスクを伴う。

3. 法的リスク

現時点では明らかないが、OpenAIの無責任な著作権の取扱は、OpenAIも含めてユーザーにも著作権侵害が認められる可能性がある。結果として権利侵害者は重大な法的責任を負うことになる。日本では、民事上は損害賠償請求、差止請求、名誉回復措置請求の対象となり、刑事上は10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金、法人の場合は3億円以下の罰金が科される可能性がある。

肖像権侵害についても、民法709条を根拠とした不法行為に基づく損害賠償請求の対象となり、差止請求により「以後掲載1日につき○○万円支払え」という形での履行強制がなされる場合もある。

OpenAIは「武器を作っているだけ」として直接的な権利主張を避けている一方、ユーザーに生成物の権利を委ねる構造となっている。これにより、大量のSora 2の個別ユーザーを訴えることの困難さが考えられる。これは、IP所有者にとっての悪夢だろう。

権利者によるオプトアウト申請

OpenAIのサム・アルトマンCEOは、騒ぎを受けて、2025年10月3日、権利者が「自身のキャラクターの使用方法について、一切使用しないことも含め、指定する権限」を提供する方針を発表した。この「自身のキャラクターの使用指定権」には、企業IPだけでなく個人の肖像権も含まれる。しかし、オプトアウト申請は権利者側の手間となる。

これは、以下のような仕組みを指す。

キャラクターや著作物の権利を持つ企業・個人(権利者)は、Sora 2上で自分のキャラクターが生成AIによって使われるかどうかを決められる。

  • 「生成を許可する」
  • 「特定の用途のみ許可する」
  • 「一切使用を禁止する」

という3段階以上の設定が可能。

Sora 2の登場は、単なるAI技術の革新を超えて、今の運用が続けば、メディア・コンテンツ産業の根幹を揺るがし、悪用されれれば政治的社会的混乱を生み出す。

特に、アニメやキャラクタービジネスを行う企業にとっては重要な問題だ。AI技術と共存しながら創作者の権利を保護する新たなビジネスモデルを考える局面に入ったようだ。AI技術が実写に近づいたために起こっている、この問題は少し前なら考えられなかった状況だ。著作権の整備が世界的にされるべきだろう。

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