ティム・バーナーズ=リーのインタビュー

by Shogo

ワールド・ワイド・ウェブの発明者、ティム・バーナーズ=リーのインタビューを読んだ。彼は、影響力を考えればアインシュタインやニュートンに匹敵する人物だ。授業でも、何度も取り上げてきている。彼の功績は、ウェブの基盤技術であるHTMLやHTTPプロトコルを生み出したことだ。

インやビューでは、彼が、自身の生み出したインターネットに対して強い危機感を抱き、同時に新たな可能性を見出しているという内容だった。

彼が警鐘を鳴らしてきたのは、当初「すべての人々のためのもの (This is For Everyone)」として構想されたウェブが、一部の巨大プラットフォーム、すなわち「ビッグ・テック」に力が集中し、分断されつつある現状があるからだ。

ティム・バーナーズ=リーは、「ウェブは壊れていない。ただ、少し配線がゆるんでいるだけだ」と語る。彼が生み出したWWWは、誰もが自由に知識を発信し、つながれる世界を目指していた。だが今、私たちが見ているのは、巨大プラットフォームが支配する閉じられた空間だ。検索、SNS、アプリ、動画などのほとんどの情報は数社の壁の中で流通し、そのアルゴリズムに沿って使わされていると指摘する。

彼の考えの中心にあるのは、「データの主権」という考え方だ。巨大プラットフォームのサービスに預けっぱなしの個人情報を自分のデータウォレットに保管し、使いたいときだけ鍵を開けて許可する。ベルギー政府やBBCがすでに試しており、ニュースの視聴履歴や行政サービスの利用履歴を個人側で管理する実験が始まっているという。企業が一方的に、データを取る構造をやめ、利用者がデータを委ねる関係に変われば、インターネットはもっと信頼できる場所になるというのが彼の意見だ。

バーナーズ=リーはAIも脅威ではなく再設計のきっかけと捉える。AIが記事を読み、要約し、ユーザーの代わりに判断する時代。便利だが、誰の記事が読まれ、誰に報酬が届くのかは見えづらくなる。広告やメディアの仕組みが根底から揺らぐからだ。そこで彼が語るのが、ユーザー個人のために働くAIという考え方だ。AIが企業の利益ではなく、ユーザーの生活を助ける存在になるためには、個人のデータを安全に預かる仕組みが欠かせない。AIが勝手に学習するのではなく、ユーザーの許可を得て学ぶ。そんな新しい信頼のルールが求められていると語る。

WWWを閲覧する、ブラウザの世界でも新しい波が起きている。OpenAIの「Atlas」など、AIを内蔵したブラウザが次々に登場し、検索やクリックを介さずに情報が整理されて届くようになっている。だが、リンクを辿る人間の行為が減れば、情報の流れはAIのフィルターを経由することになる。便利さの裏で、誰が情報の入り口を握るか、その構造は巨大な影響力を持つ。インターネットは、AI時代の新しいブラウザ戦争の入口に立っている。

インターネットの歴史は、入り口を巡る戦争だった。それが、またAIブラウザで繰り返されようとしている。これまでの覇権を握ってきたGoogle Chromeが、その地位を守のか、AtlasやCometなどのAIブラウザが、その地位を奪うのか。

どちらにせよ、バーナーズ=リーが言うように、自分のデータがどこにあり、誰に使われているかを管理する方法が求められる。これは難しいから、まずはデータの管理を意識することから始めなければならない。次に、AIが要約した情報だけを鵜呑みにせず、自分でリンクを開き、原文に触れることも必要だ。そして、信頼できるメディアや発信者を選び、自分なりの情報源を持つことも必須だ。

バーナーズ=リーが語る「みんなのウェブ」とは、技術の話ではなく、ユーザーの選ぶ力の話だ。ウェブをもう一度、開かれたメディアとして取り戻せるかどうかは、使う側の意識にかかっている。そして、できれば、今始まっているようにビックテック企業のデータの独占に規制をかけることも世界各国が連携して行うことの議論をすべきだろう。

You may also like

Leave a Comment

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

error: Content is protected !!