AIと著作権

by Shogo

毎日毎日生成AIの話題ばかりだ。その適用分野は広がりつつある。授業で使う広告の例でもAIを使った広告の事例には事欠かない。

AIについての問題は様々ある。まず1つは電力の問題だ。OpenAIが原子力発電所を作ると言うような、にわかには信じられないような噂もネット上にある。それと関連してデータセンターだ。今週OpenAIはAWSと契約を行い、従来のMicrosoftのAzurのデータセンターだけではなくデータセンターの拡大を決めた。この金額がなんと5.9兆円だ。それほどの電力とコンピューターパワーが必要とするようだ。

ただ、この問題については、原子力発電所の建設は別にしても、ある意味では金銭で解決できる。だが、はっきりしていないのは著作権の問題だ。AIが学習データとして使う著作物や生成物の著作権の取り扱いなどが、まだ明確ではない

既にたくさんの著作権者がAI開発企業に著作権侵害の訴訟を提起している。その中の1つが、2023年に英国と米国で起きたGetty Images vs Stability AI訴訟だ。

Gettyは、自社が保有する数百万点の有料写真が、画像生成AI「Stable Diffusion」の学習データとして無断使用されたと主張。AIが生成した画像の中には、Gettyのウォーターマークがうっすら残るケースも確認された。

つまりAIは学んだだけではなく、写し取っていたということだ。Getty側はそのように主張している。一方のStability AIは、AIの学習は人間の脳が模倣するような統計的処理であり、著作権侵害ではないと反論した。

この裁判の争点は大きく二つ。

  • 第一に、「学習」という行為自体が著作権法上の複製に該当するか。
  • 第二に、AIが生成した結果物が、どこまで既存著作物の影を引きずっているとみなされるのか。

この訴訟はAI生成の著作権の方向性を決める試金石となると言われてきた。

今週、ロンドン高等法院はGetty Imagesの著作権「二次侵害」主張を退け、Stable DiffusionというAIモデル自体は著作物の複製物に当たらないと位置づけた。だが、一方、AI出力にGettyの透かしが現れた事例については商標侵害を一部認定した。

判決文のポイントは、「著作物を保存・再現しないAIモデルは複製物ではない」という技術認定にあり、モデルの重みや埋め込みなどの表現が直接的に著作物の保存・再現と認定できない限り、著作権侵害の成立を否定する方針が明確化された。これは、日本の現行の考え方と同じだ。

この過程で、Getty側の学習行為が著作権の一次侵害に当たるかということについては、学習が英国域内で行われたとする立証が困難であったため審理途中で撤回され、今回は判断が及ばなかった。つまり、AI学習の適法性という重要な論点について先送りとなっており、著作権論争の争点については、今後も議論が続きそうだ。

この問題は、法律の問題としては時間がかかることは確実だが、すでにAIを活用している広告産業の現場に直接的な影響を及ぼしている。広告主の多くが今、「AI生成素材の出自」を問うようになったという。広告主は「この画像はどのAIで生成したのか」「学習データに権利処理はされているか」といった質問が並ぶそうだ。広告主としては、AIを使っても良いが権利処理を確実にということだろう。

ここで注目されるのが、生成AIツール提供企業のライセンスモデルだ。Adobeは「Firefly」で、著作権クリア済み素材のみで学習したAIを打ち出し、商業利用の安全性を保証。

CanvaやShutterstockも同様に、自社データベースから学習したAIモデルを提供し、著作権リスクを最小化している。つまり、AIを使うこと自体が問題ではなく、何を学習しているかが競争力の差になり始めた。

この動きは、メディアやプラットフォームにも波及している。ニュースサイトでは、AI生成記事に「AI Assisted」などの明示を義務づける動きが欧米で進み、日本でも導入準備が始まった。NHKが以前より、「AIによるニュースをお届けします」として、AI合成音声ニュースを流しているようなことだ。

広告業界は、これから「AIを使う力」よりも「AIを正しく使う文化」を競う時代に入るだろう。AIを使うことが当たり前になってくるとAIの透明性が求められる。その結果、AI開発企業もクリーンデータを使うことで信頼を得ることができる。だから、AI開発企業は、著作権者との契約を進めている。

  • PerplexityはGetty Imagesと複数年ライセンス契約を締結。自社の検索にGettyの画像とメタデータを正規に組み込み、帰属表示とライセンス誘導を明確化する「配信・表示」の合意で、基盤モデルの学習ライセンスというより出力面の権利処理を重視している。
  • Anthropic(Claude)は作家側との大規模係争を総額約15億ドルで包括和解。過去の学習利用への補償と是正(違法取得データの破棄等)を含む合意で、今後のライセンス相場や補償モデルの参照点となっている。
  • OpenAIは出版社・プラットフォームとの学習・配信ライセンスを多数締結。AP、Financial Times、Axel Springer、Reddit、News Corp、Vox、The Atlantic、TIME、Le Monde、Prisa、Dotdash Meredith、Stack Overflowなど幅広く、公的発表や年表で「確認済みディール」として整理されている。
  • Google(Gemini)はAPとの提携に加え、約20社規模のニュースライセンスを進めていると報じられる。機能別(検索、AI Overviews、チャット)に契約を細分し、AI検索の信頼性と露出最適化を狙う構図が示されている。

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