AIブラウザのエージェント機能については、リスクが高いのでまだ使わないようにと授業で言ったばかりだ。それに関連するような出来事が報道されていた。
Amazonが、AIスタートアップのPerplexity AIに対して警告文書を送付し、同社のAIブラウザ「Comet」がAmazonのシステムに無断でアクセスし、利用規約や法律に違反していると主張した。表向きは規約違反の指摘だが、その背景には、AIがユーザーの代わりに買い物を行うという新しい時代の到来に対する警戒心があるというように報道されている。
Amazonのオンライン広告事業は四半期で177億ドル規模に達しており、もしAIがこの購買プロセスを代行すれば、同社の広告モデル全体が揺らぎかねない。Perplexity側は「Cometはユーザーの代理として動くだけで、プラットフォームの利益を奪うものではない」と反論しているが、この対立は、AIがどこまで人間の代わりに行動できるのかという新しい境界線を浮かび上がらせた。
この争いの中心にあるのが、いま注目を集めるAIブラウザ、またはエージェントブラウザと呼ばれる仕組みだ。従来のブラウザは、ユーザーが検索し、クリックし、比較し、購入を決める操作の道具だった。だがAIブラウザは違う。ユーザーの要望を理解し、情報を自ら収集・判断し、最適な商品を選んで購入まで完了させる。たとえば「すぐ届く3万円以内のノイズキャンセリングイヤホンを買って」と話しかけると、AIがAmazonや他のECサイトを横断して検索し、最も条件に合う商品を選び、支払いまで済ませる。つまり検索や比較といった過程を丸ごと省略してしまうのだ。
自分も実際に以前は商品を探す際には検索して探して比較を行っていたが、今はAIに条件を示して調べてもらう。だが、エージェント機能ではなく自分で購入を行う。
条件に合う商品を選び、支払いまで済ませるようなエージェント機能は、夢のようなテクノロジーだが、その背後には多くのリスクが潜んでいる。まず技術面では、AIが自動でウェブ上の情報を読み取り、指令を実行するため、悪意あるサイトに仕込まれた命令を誤って実行してしまう危険がある。これを「プロンプトインジェクション」と呼び、人間なら怪しいと感じて止まる場面でも、AIは機械的に従ってしまう可能性がある。
また、AIが複数のウェブサイトを横断して情報をまとめる過程で、通常のブラウザが持つセキュリティの壁が曖昧になり、情報漏えいのリスクが高まることも懸念されている。
購入まで任せると言うとIDやパスワードには決済情報までAIエージェントに渡すことになる。これはAIエージェント側でどのような対策をとっていったとしてもリスクである事は変わらない。
法的にも課題は多い。アメリカではコンピュータ不正利用防止法(CFAA)という法律があり、許可のない自動アクセスは不正とみなされる可能性があるようだ。AIがユーザーの名義でサイトを操作した場合、それは本人の行為なのかAIによる不正アクセスなのか、今の法律では明確に整理できていない。日本ではどうなっているのか、これから調べてみようと思う。(もちろんAIで)
また、AIが収集したデータをどのように使うかという「二次利用」の問題もある。AIはユーザーのために情報を要約したり推薦したりするが、その過程で個人情報がどのように扱われているのか、利用者が把握できないケースも出てくるだろう。
そして、マーケティングや広告の観点から見ると、この変化はさらに大きな波紋を起こす。AIブラウザが普及すれば、ユーザーはもう検索結果のリストや広告バナーを見ることなく、AIがすすめる最適解を選ぶだけになる。つまり、企業がこれまで莫大な費用を投じてきた「検索広告」や「おすすめ枠」がスキップされてしまう。従来の購買行動の流れである、検索・比較・クリック・購入のプロセスのうち、広告が介入できる部分が消える。その結果、企業は「どの広告が効いたのか」「どの接点で顧客が反応したのか」を測る指標を失ってしまう。これまでの広告分析の基礎となっていた「アトリビューション」(効果の因果関係を追う分析手法)が、根本から見直しを迫られることになる。
では、この新しい環境で広告やマーケティングはどう変わるのか。おそらく、これからの企業は人間ではなくAIを相手に最適化していくことになるのだろう。AIが読み取れるように製品情報を整理し、価格や在庫、配送条件などを、機械が理解できる形式の構造化データで提供しなければならなくなる。従来の「SEO(検索エンジン最適化)」に代わって、「AEO(AIエージェント最適化)という新しい概念が登場しつつある。AIに「自社製品を正しく理解してもらう」ことが、新たなマーケティング戦略になる。
AIブラウザは、今後はユーザーの活動を便利にするのだろう。しかし同時に、それは、意思決定の主導権を誰が持つのかという問題を突きつける。法的にも定義が必要になるだろう。AIエージェントの普及が導く、最短かつ省力の裏で、情報と広告の新しい購買行動が生まれるのだろう。長らくAIDMAやAISASと言ったモデルが有効とされてきたが、これが少し変わるの。
