AIが得意なこと、得意でないこと

by Shogo

2026年2月初旬、ソフトウェア業界に激震が走った。AnthropicがリリースしたClaude Codeの性能が想像以上に高く、プログラム開発の自動化が現実味を帯びてきたことで、SaaS企業やインドのIT大手の株価が軒並み下落した。メディアは、この動きをAI脅威論の具現化として報じている。

もっとも、株価の反応がすべてを物語るわけでもないが、AIが評価の明確な仕事において急速に人間に迫りつつあるのは間違いない。では、コード開発と同じようにAIが席巻しそうな職種はどこか。そして、クリエイティブ領域の仕事はどうなるのだろうかs。

AIが得意とする仕事の条件

Claude Codeが強いのは、単にプログラミングができるからではない。コードを書き、複数ファイルを編集し、コマンドを実行してテストを回し、エラーを修正する。この一連の閉じた評価ループを高速で回せるからだ。AIが得意なことをGeminiに聞いてみた。それによれば、AIが完璧に近い機能を発揮するには、次の条件が揃っている必要があるようだ。

  • 入出力がデジタルで完結している(紙や現場の曖昧さが介在しない)
  • 仕様・ルール・制約が明文化され、正誤判定が機械的に可能
  • 例外処理を人間にエスカレーションできる設計(完全自動化でなくても運用が回る)
  • フィードバックが速い(正解がすぐ分かり、学習・改善が効く)

この条件を満たす職種は、多い。データ入力・記帳業務では、OCRとAIの組み合わせで請求書から仕訳を自動生成でき、処理時間を最大90%削減している。翻訳業務(特に技術文書や法律文書)では、AIが下訳を担当し人間が仕上げるハイブリッドモデルが主流になりつつある。カスタマーサポートの定型的問い合わせは、AIチャットボットが24時間対応で処理し、通話時間を30%削減した例もある。

製造業の予測保全・品質管理も同様だ。IoTセンサーのデータをAIが分析して機器故障を予測し、コンピュータービジョンで製品の欠陥を検出する。良品か不良品かという二値的判断が明確なため、AIの精度は人間を上回ることもある。在庫管理・需要予測、請求書処理・財務自動化、書類審査・コンプライアンスチェック、不正検知・リスク監視、医療の転記・記録業務などは、すべて「成果物が客観的に評価できる」「正誤の判断基準が明確」「反復的なタスクが多い」という共通点を持つ。

言い換えれば、AIが完璧に近い仕事をするには、「動くか動かないか」「合っているか間違っているか」が数値や論理で測定できる世界が必要なのだ。同じ例として、満点をたくさん取ったマークシート式の大学共通テストも同じだ。

小説は書けても、文学は書けない――創造性の壁

では、創造的な仕事はどうか。小説やクリエイティブライティングは、AIにとって最も難易度の高い領域だと思われがちだが、最近の事例を見ると、状況は単純ではない。

2024年、芥川賞を受賞した九段理江の『東京都同情塔』は、ChatGPTを用いて執筆された部分を含んでいた。彼女は受賞会見で「本文の約5%がAI生成」と明かし、審査員からは「完璧で欠点を見つけるのが難しい」と評価されている。ただし、AIが使われたのは小説内に登場するAIのセリフ部分だけで、物語全体の構想や主要な文章は人間が書いているということだ。

問題は、AIが文学賞を受賞する事例が増えつつあることが、本物の文学的品質によるものか、それとも新奇性バイアスによるものかという点だ。

だが、AIは形式的な完成度や構造的な新奇性では高得点を獲得する一方で、人間の内面性や結果への理解に関連する項目では著しく低い評価を受けている。文学的品質というのは、心理描写、言語感、道徳的複雑性、物語力、主題的共鳴といった多層的な要素から成り立っている。そしてこれらは、人間経験の緩やかな蓄積から生まれるものだ。AIの最大の欠点は肉体を持たないことだと言われる。肉体が​ないから、感覚や食欲・性欲といった肉体的な感覚を理解することはできない。​

作家の未来――消えるのではなく、変わる

ケンブリッジ大学が2025年に実施した調査では、332人の作家のうち51%が「AIが自分たちの仕事を完全に置き換える可能性がある」と考えていることが明らかになった。さらに97%の作家が、AIによる完全な小説生成に対して極めて否定的な見解を示している。約40%の作家は、執筆活動を支えるための副業収入がすでにAIの影響を受けていると報告しており、基本的な執筆や翻訳の需要は20%から50%減少しているという。

実際、ニュース記事、スポーツレポート、財務サマリー、商品説明といった定型的な執筆作業は、既にAIが自動生成できる領域だ。APやBloombergなどの報道機関では、構造化データからニュース記事を生成するAIを活用している。一方で、ストーリーテリング、専門的な権威あるコンテンツ、微妙なニュアンスを含む編集作業といった領域では、人間のライターが不可欠とされている。人間の作家が提供できる真正性、感情的共鳴、信頼といった要素は、AIでは代替が難しいからだ。確かにAIの署名原稿では誰も読まないだろう。

それでも、AIの台頭により、作家の役割は変化するという意見は多い。それは、人間の仕事が、唯一の小説などのコンテンツ創造者からキュレーターや編集者へとシフトする可能性があるということだ。AIが生成したコンテンツから最良のアイデアを選び、洗練させることで、最終的な作品に人間らしさを保つという新しい役割だ。AIツールを活用することで、作家は反復的なタスク(校正、編集、アウトライン作成など)から解放され、より創造的な側面に集中できるようになる。先日の世界経済フォーラムも、AIとクリエイティブ産業の統合が革新的なストーリーテリングとコンテンツ制作につながると指摘している。

また、自費出版市場では、AIが数秒で長編小説を生成できるようになり、市場が何億冊もの本で溢れる可能性が懸念されている。こうなると、人間の作家が読者との接点を見つけることが極めて困難になるかもしれない。既にAmazonでは、アルゴリズム主導の推薦システムと市場重視の執筆戦略により、多くの作家が独創性よりも成功の型を模倣することに走っており、市場の飽和が進んでいるという。

それでも、AIツールの使い方を理解し、大規模言語モデルにプロンプトを与えるスキルを持つ作家は、高付加価値の創造を行うことができるだろう。成功する作家は、AIとの協働方法を理解しながら、感情的深み、戦略的思考、人間的経験などの自身の強みを統合する者になることが可能になるからだ。

小説家やクリエイターの仕事が完全に消滅することは考えにくい。だが、その職の性質は大きく変わる。AIは定型的な作業を自動化し、作家の役割を「創造者」から「キュレーター兼編集者」へとシフトさせる。真正性、感情的共鳴、専門性を持つ人間の作家は、AIとの協働によって新たな価値を創出できるはずだ。ただし、それは「AIに使われる」のではなく、「AIを使いこなす」ことが前提になるだろう。

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