2026 World Baseball Classicが始まった。このイベントは、日本のスポーツやメディアに大きな影響を与えることは確実だ。
2023年の決勝、大谷翔平がマイク・トラウトから三振を奪ったあの劇的な幕切れは、単なる名場面ではなく、多くの日本に忘れられない感動と衝撃を与えた。その余韻は消えることなく、今回のイベントにも引き継がれている。そして、その日本人の心情を利用したMLBのアジア戦略が始動した。
MLBの戦略
読んだ記事の中で、MLBのビジネス・メディア担当副コミッショナー、ノア・ガーデンは、2023年大会からの商業収益はすべての分野で三桁成長を記録し、世界約70社のスポンサーが集結したと語っていた。MLBは完全に日本の広告主にとっての重要イベントとなった。
大谷翔平という「経済インフラ」
今回も大谷翔平が焦点だ。前回大会での活躍で大谷の商業的磁力は指数関数的に膨らみ続けた。もはや彼は一人の選手というより、MLB国際化の「経済インフラ」に近い存在になっている。
その後のドジャースでのワールドシリーズ二連覇がそれをさらに加速させ、今回のWBCでもセイコー、伊藤園、JAL、コナミ、MUFG、IHIといった日本企業が彼を媒介としてグローバルスポンサーに名を連ねている。セイコーは大谷を起用したWBC限定モデルを28万6000円で発売している。
Netflixの独占配信
今大会で最も議論を呼んでいるのは、日本国内の全47試合がNetflixの独占配信になったことだ。前回2023年大会は地上波各局が中継していた。それが今回、完全に様変わりした背景には、放映権料の急騰がある。2023年大会時の約30億円から、2026年は約150億円へと実に5倍に跳ね上がり、地上波局では対応できなかったとも報じられている。
地上波での無料視聴が消えたことは、ファンにとっての一大事だ。ある意味で、多くのファンを切り捨てたとも言える。しかし広告・メディア業界の視点から見ると、これは切り捨てではなくむしろ「地殻変動」と呼ぶべきかもしれない。Netflixが日本で初めて本格的に国別スポーツライブ配信市場に踏み込んできた事実は、長年スポーツ中継という聖域を握ってきた地上波テレビにとって、単純には無視できない変化だ。
既存のNetflix契約者は追加料金なしで全試合を視聴できる。ただし、契約者であっても広告は見せられる。サブスクリプション型のスポーツ視聴が日本に定着するかどうか、WBC2026はその最初の大規模テストケースになるだろう。。Netflixの目論見通り、大会終了後も新規加入者がNetflixに留まるかどうか。その答えが出るのは、もう少し先の話だ。
スポンサーシップの「重力」が変わった
今大会のグローバルスポンサー10社を眺めると、IHI、伊藤園、JAL、コナミ、コーワ、MUFG、セイコーと、過半数を日本企業が占める構成になっている。これはMLBが意図的に組み上げたことなのかもしれない。あるいは、米国などの企業が興味を示さなかったのかもしれんばい。だが、結果的には日本マネーをMLBのエコシステムに組み込んだ。
興味深いのは、その露出の仕方だ。ユニフォームの袖にはMUFGのロゴが縫いつけられ、ヘルメットには日本通運のマークが踊る。東京プールのプレゼンティング・スポンサーには人材サービスのディップが就いた。彼らは単に「野球を応援している」のではない。MLBという世界最強のコンテンツ・プラットフォームに乗っかることで、自社ブランドをグローバルスタンダードへと押し上げようとしている。日本企業が再び世界市場で戦うための投資なのだろう。
また、物販の現場でも同じ変化が起きている。会場でのリテール権を掌握したのは、スポーツマーチャンダイジングの「Fanatics」だ。従来のLegends社に代わり、ミズノ、ナイキといったライセンスホルダーに加え、ストリートブランドのBorn X RaisedやUndefeatedとのコラボレーションも展開している。これは、WBCが単なる野球の試合から、ファッションやライフスタイルを含めたカルチャー・イベントへと変貌を遂げたことを意味するのかもしれない。
Netflixが地上波の牙城を崩し、日本の大手企業がMLBエコシステムに資金を投じ、大谷翔平という個人が経済的ハブとして機能する。東京ドームで響く歓声の裏側で、MLBは、日本で重要スポーツであり、経済インフラの一部となった。30年前に、アメリカでMLBの仕事をしていた時には、まだMLBは商品でもコンテンツでもなかった。その後、野茂英雄を経て、最強コンテンツとなった。当時からは、想像もできない異次元の存在になった。
