夏休みになった。だが、医者周りや幾つかの手続きのために普段より忙しい。だが、毎日が夏休みなら忙しいということはありえない。そう思っていたら、NYTで引退が与える影響についての記事が目についた。様々な影響があるが認知機能にも影響があるというのだ。
記事を整理すると引退が認知機能に与える具体的な影響は下記のようなことだ。
1. 認知機能低下の傾向
複数の実証研究により、引退は特に男性やホワイトカラー職、正規雇用など「仕事へのコミットメントが高い層」で、認知機能の低下が見られる傾向が明らかになっているという。
具体的には、記憶力や言語能力、判断力などが徐々に衰えるケースが報告されている。これは、仕事という日常的な認知的刺激や社会的交流が失われることが主な要因と考えられているという。今は授業をしたり学生と喋っているが、それがなくなると影響が出ることは自明だ。だから、これは納得感がある。
2. 引退時期と認知症リスクの関連
フランスの大規模調査では、引退する年齢が高いほど認知症発症リスクが低下するという結果があったようだ。つまり、長く働くことで認知機能が維持されやすいことが示唆されている。
これは、仕事を通じて日々脳を使い続けることが、認知症の予防にも寄与している可能性を示している。これを考えれば、金銭的なことでなくても社会との関係を維持するという意味で何らかの仕事で働き続けるほうが良いようだ。
3. 影響の個人差
引退が認知機能に与える影響は一様ではなく、性別や職種、就労形態、経済状況などによって異なるという。個人差は当然だろう。
男性の場合は、仕事役割の喪失による自尊心や自己効力感の低下が認知機能の低下と関連しやすいとされている。女性の場合は、特に高齢かつ安定性の低い層で、経済的な変動が認知機能低下に影響する傾向が見られたという。
4. 認知的・社会的刺激の重要性
引退後も認知的・社会的な刺激を継続することが、認知機能の維持・低下予防に重要であるとされている。例えば、ボランティア活動や趣味、地域活動などに積極的に参加することで、脳への刺激が保たれ、認知機能の低下を抑える効果が期待できるという。これも、想像通りだから何らかの社会参加や活動を考えるべきということだろう。
5. 例外的な良好影響
一部の研究では、引退によってストレスから解放されることで、メンタルヘルスが改善するケースも報告されているが、認知機能に関してはむしろ低下傾向が明らかのようだ。ストレスが無くなってハッピーだが、それが認知機能には悪影響を与えるということのようだ。
記事では、機能と加齢の研究を行うアリゾナ州立大学の教授は、「退職前は、朝起きて、同僚と交流し、仕事の精神的な課題に取り組んでいます。しかし、50年間の習慣が突然失われてしまうのです」と述べている。引退後には、体と脳はもう必要ないと感じてしまうということのようだ。その結果、不活発な状態への自然な反応として、認知機能の低下が見られるというメカニズムのようだ。
認知機能低下への対策
だから、記事では、「新しい目的を見つける」、「社会的なつながりを維持する」、「新しいことに挑戦する」の3つが推奨されていた。
「新しい目的を見つける」
研究によると、目的意識を持っている人は、加齢に伴う認知機能の低下が少ない傾向があるという。
特に、ボランティア活動は役立つらしい。研究によると、退職後に定期的にボランティア活動をしている人は、生物学的な老化の速度が遅く、活発で社会的な活動を続けることで認知機能の低下を防ぐことができることがわかっている。
「社会的なつながりを維持する」
退職後は、社会的な接触が減少し、その後、認知機能が低下するというかなり確固たる証拠があるらしい。社会的孤立に伴ううつ病、認知機能の低下、早期死亡を防ぐために、退職者は職場の社交を、定期的な対面またはオンラインでの集まりに置き換えることを推奨している。ラジオを聞いたり、テレビを見たりするのとは違う、会話のやり取りが必要らしい。
「新しいことに挑戦する」
創造的で斬新なことをすることは、目的意識を与え、脳を敏捷に保つのに良いらしい。カリフォルニア大学の教授は、創造性は他のスキルと同じように練習できることが研究で示唆されていると言っている。それは、毎日数分間文章を書いたり、新しい冒険的な夕食のレシピに挑戦したりすることも含まれる。加齢に伴い、定期的な運動は脳の健康にとって非常に重要であるため、新しい種類のフィットネスクラスを検討することも良いらしい。
ともかく、退職は人生の新たな章の始まりだ。残りの人生が、どの程度の長さかはわからないが、準備をして、今後起こるであろう認知機能の低下に備えたいものだ。