Netflixが、2025年5月の広告主向けプレゼンテーションで、広告付きプランの月間アクティブユーザーが世界全体で9400万人に達したと発表した。これは2024年の4000万人、2024年11月の7000万人からの驚異的な伸びとなった。かつて「広告なし」をセールスポイントにしていたNetflixが、今や広告ビジネスを積極的に推進し、大きな成功を収めている。
Netflixの広告付きプランは2022年の導入以降、急速に拡大している。わずか数年で月間アクティブユーザー数は9400万人に達し、全世界で3億人を超えるNetflixユーザーの約3分の1を占めるようになった。特に注目すべきは、広告付きプランを提供している地域では、新規加入者の50%以上がこのプランを選択しているという事実だ。
この急成長の背景には、複数の要因があると分析されている。まず、価格戦略の見直しが挙げられる。Netflix米国では、広告付きプランは月額6.99ドル(約1,080円)、広告なしのスタンダードプランは15.49ドル(約2,400円)、プレミアムプランは22.99ドル(約3,600円)となっており、価格差が大きいため、コスト意識の高いユーザーにとって広告付きプランが魅力的な選択肢となっているからだ。日本でも同様に、広告つきスタンダードプランは月額890円と、広告なしスタンダードプラン(1,590円/月)と比較して大幅に安価になっている。
ユーザーエンゲージメントの高さ
驚くべきことに、広告付きプランのユーザーは平均して月に41時間もサービスを利用しているというデータも発表されている。これは広告なしプランと同程度のエンゲージメント水準であり、広告の存在がユーザー体験を大きく損なっていないことを示している。Netflixの広告部門トップのエイミー・ラインハード氏は、「最も熱心なオーディエンスを持つプラットフォーム」と自社のポジションを、今回のイベントで強調していた。
自社広告プラットフォームの構築
Netflixは広告ビジネスの拡大に合わせて、自社の広告プラットフォームを構築している。これまでは、Microsoft Advertisingと提携して広告事業を展開していた。Microsoftが、広告配信やターゲティング、第三者検証などの機能を提供していきた。しかし、自社プラットフォームに切り替え、すでにカナダで稼働を開始し、米国にも展開された。2025年6月までには、広告付きプランを提供している全12か国にこのプラットフォームを展開する予定だという。自社プラットフォームの構築により、Netflixはより柔軟な広告運用と収益最大化を図ることができるという。
グローバル展開の加速
Netflixは2025年2月からヨーロッパでも、プログラマティック広告の展開を開始した。ドイツ、スペイン、フランス、イタリア、英国などの主要市場で、GoogleやThe Trade Deskなどのデマンドサイドプラットフォームと提携し、広告枠の販売を拡大している。さらに2025年中には日本、韓国、オーストラリアにも、この機能を導入する予定となっているようだ。
スポーツコンテンツとの融合
広告収入の拡大において、スポーツ番組のライブ配信が大きな転機となった。Netflixは2024年末にNFLの試合をクリスマスにライブ配信し、2024年11月にはボクシング「ジェイク・ポールvsマイク・タイソン」の試合も配信した。これらの人気スポーツイベントは多くの視聴者を集め、広告主にとって魅力的なプラットフォームとなっている。
2026年に向けた新広告フォーマット
今回のイベントで、Netflixは2026年末までに、新しい広告フォーマットを導入する計画を発表している。その中には、一時停止時に表示される「ポーズ広告」や、視聴中にインタラクティブに表示される広告などが含まれる。これらの新しいフォーマットは、視聴者体験を損なわずに広告効果を高めることを目指しているという。つまり、今より広告が増えるということだろう。
広告収益の急成長と今後の見通し
Netflixの広告収益は、2024年に前年の2倍となり、2025年にはさらに倍増すると予測されている。米投資会社Evercore ISIのアナリストによれば、2025年のNetflix広告収入は30億ドル(約4,600億円)を遥かに超える可能性があり、2026年にはNetflixの総収入の10%を占めるまでに成長すると見込まれているようだ。
広告価格設定の戦略
現在、Netflix広告のCPM(千回表示あたりのコスト)は他社に比べて高額に設定されている。2024年第4四半期のデータによると、NetflixのCPMはイギリスで44.50ポンド(約8,625円)、フランスで37ユーロ(約5,877円)、ドイツで58ユーロ(約9,211円)という水準だ。これは 、プレミアムポジショニング戦略の一環であり、富裕層ターゲットに加え、視聴環境と高いエンゲージメントに対する価値付けなのだろう。
一方で、一部のメディアバイヤーからは、55ドル(約7300円)というCPMが高すぎるという不満も出ているようだ。Netflixはこの価格帯を維持しつつも、特定広告主向けのプライベートマーケットプレイス(PMP)での価格を直接販売よりも20%安く設定するなど、柔軟な対応も行っているという。
ストリーミング業界における広告モデルの台頭
Netflixの成功は、ストリーミング業界全体で広告モデルが主流になりつつあることを示している。調査によると、動画配信業界の新規契約者のうち広告付きプランが初めて全体の過半数を超えた。この傾向は他の大手ストリーミングサービスにも波及しており、AmazonもPrime Videoで2025年から日本でも広告を表示し始めた。
FAST(Free Ad-supported Streaming)の台頭
さらに、広告付きで完全無料のストリーミングサービス、FAST(Free Ad-supported Streaming)も急速に成長している。これは、これまでのテレビ放送のような形式で、広告を見る代わりに無料でコンテンツを楽しめるモデルだ。日本のABEMAはこのFASTの例だ。一時のサブスク・ブームも結局は、古き良き広告モデルに落ち着くということだろうか。
今後の課題と展望
Amazon、Apple、Disneyなど多くの競合がストリーミング広告市場に参入する中、Netflixはいかに差別化を図るかが、今後の課題だろう。これまでどおりの高品質なオリジナルコンテンツの制作継続と、スポーツやライブイベントなど新たなコンテンツカテゴリーへの投資が重要になる。彼らが嫌ってきたスポーツイベントへの投資も必要になるかもしれない。
また、広告収入の拡大を目指す一方で、視聴体験の質を維持することも重要な課題だ。現在、Netflixは広告の過剰な表示や無関係な広告の流入によってユーザーが離脱するのを防ぐため、広告枠の直接販売を重視しているという。AI技術を活用した広告のパーソナライズやコンテンツとの融合など、より洗練された広告挿入が差別化ポイントとなる。
Prime Videoも契約しているし、AppleTV+もあるので、Netflixを止めようとしたが家族の反対で、広告付きプランに変更して継続した。だが、時間がないので、Netflixを見る機会が減ってしまったが、Netflixを見ている家族からは、広告についての特に不満は聞いていない。