MetaがGemini採用

by Shogo

Metaが自社の広告事業にGoogleのAIモデル「Gemini」の採用を検討しているというニュースに驚いた。巨額の投資をAIに注ぎ込んできたMetaが、なぜ競合であるGoogleの技術に頼るのか不思議だった。メンツもあると思うのは、経営者ではない筆者の偏見なのだろう。

マーク・ザッカーバーグCEOは、2028年までにAIインフラに6000億ドルを投じる計画を掲げ、NvidiaのGPUを130万基以上導入するなど、AI開発に莫大な資金とリソースを注ぎ込んでいる。Llamaモデルをはじめとする自社開発AIも進化を続けているが、それでもGoogleやOpenAIといった競合のトップモデルには、特に推論や数学といった分野で遅れをとっているのが評判だ。これが理由なのだろうか。

MetaのAIモデルLlamaシリーズは、一部のベンチマークでは高い性能を示しているが、推論能力や数学的処理において他社に後れを取っている。特に広告効果の最適化という複雑な計算タスクでは、この差が顕著に現れる可能性があるからと想像できる。

一方、GeminiはマルチモーダルAIとしての強みを持ち、テキスト、画像、音声、動画を同時に処理できる能力に長けている。Meta広告が目指している「AIによる広告の完全自動化」において、このマルチモーダル理解能力は決定的な優位性をもたらすと考えられているという。

広告業界では、AIによる劇的な変革が進行中だ。Geminiを活用した広告戦略では、従来手法と比較して3倍もの効果向上が報告されており、マルチモーダル広告分析により大手小売チェーンTargetはキャンペーン効率を2.8倍向上させたと報道されている。

Meta自身も2026年末までに、広告主が製品画像と予算を入力するだけで、AIが画像・動画・テキストを含む広告全体をゼロから作成し、最適なターゲティングや予算配分まで自動で行うシステムの導入を目指していると以前報道された。このレベルの自動化を実現するには、現在のLlamaモデルだけでは技術的に不十分である可能性が高いのだろう。

このような動きがAI業界全体で見られる傾向だ。MicrosoftとOpenAIの関係も、かつての蜜月から複雑な競合関係へと変化しており、Microsoftは現在独自のLLMを開発している。同様に、OpenAIもGoogleやAmazonのクラウドサービス利用を検討するなど、従来の境界線が曖昧になってきた。

企業向けAI市場では、AnthropicのClaudeがOpenAIのシェアを逆転し、企業利用において32%のシェアを獲得しているという。この背景には、各社が特定の分野で差別化を図り、「競争」と「協力」を使い分ける戦略的思考があるようだ。

今回のMetaの判断は、短期的な収益最大化と長期的な技術開発投資のバランスを取った、極めて合理的な選択なのだろう。メンツにこだわらなければだが。

Metaの2024年第4四半期決算では、広告収入が前年同期比21%増の約468億ドルに達し、InstagramだけでもMetaの広告売上の50.3%を占める規模になっている。この巨大な収益基盤を維持・拡大するために、最適な技術を内製・外製問わず活用するという姿勢は、ビジネス上極めて賢明だ。Geminiの入力コストは100万トークンあたり0.3ドルと競合の数分の一というレベルの安さを実現しており、運用コストの観点からも魅力的な選択肢となっているのだろう。

MetaのGemini採用検討は、AI業界が成熟期に入りつつあることが伺える。単純な技術競争から、戦略的パートナーシップと選択的競争の時代へと移行している証左だ。

6000億ドルという史上最大規模の投資を行いながら、同時に競合技術の活用も検討するMeta の姿勢は、経営というものを冷徹に捉えていることを示す。企業にとって重要なのは、すべてを自社で開発することではなく、最適な技術を最適なタイミングで活用し、ユーザーに最大の価値を提供することだからだ。

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