28日、29日と北京は雨でした。
雷雨
28日、北京の空は午後1時過ぎだというのに夜のように真っ暗になった。そして雷雨。
激しい雨、闇を切り裂く稲妻。大陸性の気候だ。アメリカの夏にくるサンダー・ストームだ。
夜、東京からの出張者とHouhaiで食事した。久しぶりに会った彼とは話が弾んだ。
そして、お決まりの昔話。もう十年前のある仕事に話が及んだ。そして僕はその時に
出会ったある人物の話をした。
知性と謙譲
頭が良いとすぐ分かる方だった。そして、その控えめな態度に驚いた。相手は、日本を
代表する人物だ。そして僕といえば単なる使い走りのようば現場の仕事をしていた。ただ、その
日本を代表する人物に、何度もお願いに行った。その仕事は、彼にとっても僕にとっても
国益にかなうはずの仕事だった。いろいろなお願いを聞いていただいたし、お願いしたことは
すぐ引き受けていただいた。そして人懐っこそうな顔をした。時にはいろいろな質問を受けた。
日本経済の話ではない。スポーツのことであったり、アメリカの習慣や英単語のことだった。
説明すると楽しそうに聞いてくれた。
そして、海外からのお客様に会う時は、その英語も話す内容も、僕が何百年たっても追いつけないレベルだった。周りの僕らは、お客様と一緒になって恐れ入っていた。
2人きりに
時々、二人きりになってしまった。その方は緊張してる僕を励ますかのように話しかけてくれた。
30歳も年上の兄貴のように。僕は彼と会うのをいつしか楽しみにしていた。
歴史が、国民が見ている
その仕事にあるクリティカルな瞬間が来た時、その方の判断は正しいことをすることだけでは
なく、手続きも重視した。なぜその判断をするのか、きちんと証拠、プロセス、事実をすべて
記録することをお話しになった。僕には目も前の一大事に動揺するだけで、そのような配慮は
なかった。いや、僕だけではなく、周りの誰もがどう進むべきかだけを考えていた。その方が
主張されたことは、正しいことをするだけでは十分ではないということだ。今の言葉で言えば
アカウンタビリティということだ。歴史と国民への説明ができるようにすべきだとおっしゃったのだ。
赤坂の中華
すべてが終わってしばらくして、その仕事にかかわっていた下々が赤坂の中華に招待されて、
お言葉をいただいた。僕はうれしかった。結果はともあれ、その方に招待されたことが。
そして、それがお会いした最後だ。
なぜ
今でも時々思い出すのは、つまらない話に笑っていただいたことだ。勿論、相手が日本を
代表する著名人ということもある。でも思い出すのはその笑顔だ。
雨の朝
CNNがそのニュースを伝えていた。あのお年だったから驚くことではない。日本が進むべき
方向を見失った今、また日本に知性が良心が失われたような気がする。その世界観、
歴史観は同時代の誰をも凌いだ。その方を今、失うのは日本の未来への不安感を
さらにかきたてる。その日、北京はまた雨だった。