今週は毎日毎日、アメリカ大統領選挙について書いている。何度も言うが、よその国の選挙である。ただ、アメリカと言う国の国際的な力や日本との関係の深さから、大統領の性格や品格は日本人にも大きな影響与える。
過去4年間、トランプ大統領の、非常に特殊な振る舞いや言動のために、北朝鮮や中東の問題を始めとする国際政治や、環境問題や経済・貿易おける国際的な協力など大混乱に陥ってきた。
不思議なことに、それは外から見ている私たちだけのことで、アメリカ国内ではまだ7000万人と言う投票者の約半分が、トランプ大統領を支持している。これは如実にアメリカと言う国が置かれている状況を表している。世界一の繁栄を誇る国で、取り残され苦しんでいる人がたくさんいると言うことだ。あれだけ人種差別の問題を無視し、むしろ悪化させる発言や行動を表立ってとる人物はいない。さらには、移民や有色人種を差別する極勢力を野放しにするなどしてきた。それでも支持を続けると言うことは、トランプ大統領の言う既成の政治の否定と白人を中心とするアメリカへの回帰を望んでいるからだ。
4年前には、取り残された人の希望と、手を差し伸べない職業政治家への嫌悪から支持を集め大統領に当選した。そして、その思いは7000万人の人は変わってはいない。
バイデン大統領当選者は、その勝利スピーチの中で、国民の団結と失われた世界からの尊敬の回復を訴えた。おきまりのセリフであるが、本音だろう。
新政権は、トランプ大統領支持者との分断はあまりにも大きく、国民全体から支持を受けるには困難な道が待っている。
アメリカを繁栄させ続けている自由主義経済が結果として多くの取り残される人を生み続ける。この人たちを経済的に救う事は金をかければできるが、精神的に救っていく事は難しい。彼らのルサンチマンを救う方法が、他者の差別や攻撃といったことになってきているのは理由があるからだ。そしてそれは何をしても今後も残る。トランプ大統領がまだ敗北宣言をせず法廷闘争を続けようとするのも7000万人ものこういった人たちの支持があることを知っているからだ。潔いとか高潔といった種類の人格は、彼の生きてきた経済的な生存競争の中では必要とされて来なかった。
トランプ大統領の在任中に亡くなった、同じ共和党のマケイン上院議員のことを思い出す。トランプ大統領は葬儀に出席することを拒否した。しかも、ベトナム戦争で捕虜になり7年も耐えたマケイン上院議員に対して「負け犬」と言う表現で侮辱したのだった。
マケイン上院議員は、2008年のオバマ大統領との選挙に敗れた後のスピーチの中で、国民にオバマ大統領を中心に団結してアメリカを前進させようと言うことを訴えた。このスピーチはその際にはずいぶんと話題になった。
トランプ大統領が同じように分断された国を統一するために、バイデン大統領のもとでアメリカを偉大な国にしようと言うスピーチをすれば良いが、それは起こりそうにもない。トランプ大統領は、大統領職を去った後もあのキャラクターのまま政治批判を続け、人種差別発言を続けるのだろう。
また仮にしたとしても、トランプ支持者とバイデン新政権とは、あまりにも溝が深く融和が進むとも思えない。
これから、民主党とバイデン新政権が、取り残された人をすぐに救うことができるとも思えない。バイデン大統領の当選で1年近く続いた大統領選挙が終わるだけだ。
この1週間だけを見ても、全てのメディアと多くの人々はアメリカについて考えることになった。これはアメリカ人に自分の国や、自分がアメリカ人であることを考えさせるための装置としては素晴らしいものである。アメリカでは小学校では、国旗に忠誠を誓うと言うことが毎朝行われるが、逆に言うとそうしないとアメリカと言う国は誰にとってもよく見えない。
それぞれの州は一定の権限を持ち、そこの住民は一生そこからでないと言う人も多くいる国で、アメリカ合衆国と言う国や世界と言う概念も必要としないほど、一定の豊かさを享受できるのだから、アメリカ合衆国と言う国を考えなくて良い。
それが4年に1度大統領を選ぶ選挙において、アメリカ合衆国を認識させるために機能している。
選挙の開票は、まだ続いており最終的な得票数は確定していないし、下院は民主党が過半数を獲得したが、上院はまだどちらとも言えない。上院が共和党に過半数をとられた場合に、バイデン新政権は民主党の左派が望むような政策を取れない。それにその政策が取れたとしても、それがトランプ支持者を救うことになるかどうかもわからない。よその国の事ではあるが、そのような状況は私たち、日本人も同じだ。幸せなことにアメリカのような暴力的な事件は起きてはいないが、同じ苦しみを持つ人は多いはずだ。