世界のコロナウイルスの新規感染者は急増しているが、日本でも11月に入って、増加傾向にある。11月7日には、全国で1331人という数になり、9日には北海道で200人の新規感染者数を記録した。
これが温度の低い乾燥した季節のコロナウィルスの感染状況を表しているのではないかと言う観測もされ、多くの人のこれから来る冬の感染状況について危機感を持つようになっている。これが事実なら第3波の到来だ。
そんな中で明るいニュースは、ファイザーのワクチンが90%以上の効果があることが治験でわかった。たくさんの候補のワクチンから効果があるものが見つかったことから、さらに治験参加者を増やしたテストを行い、実用化が目指されている。
皮肉にも、このニュースはバイデン候補の大統領当選確定のニュースの翌日にもたらされた。トランプ大統領は、11月3日の大統領選挙の前までにワクチンが実用化されると主張していた。それが、連邦政府のコロナウイルス・ワクチン開発のタスクフォース、「オペレーション・ワープ・スピード」の目標だったのだろう。
コロナウィルスの蔓延による感染者や死者の増加に対して、連邦政府が対策を行っていると言う事をアピールする必要があったわけだ。オペレーション・ワープ・スピードは、いくつかの製薬会社に資金や技術を提供してワクチンの開発を行っている。開発されたワクチンは、アメリカ人に無償で供給されると言う計画だ。
ファイザーに対しては、オペレーション・ワープ・スピードは、19億千万ドルの資金提供で1億人分のワクチンの供給を受けることを申し出ていた。しかし、ファイザーは、この資金提供を断り自社で開発を行ってきた。ファイザーの立場は政府の資金提供を受けるのではなく、自社で開発して完成したワクチンをオペレーション・ワープ・スピードに提供すると言う形を選んだ。
連邦政府の資金と管理の下での開発を拒んできた理由はよくわからないが、大統領選挙の駒の1つになることを望まなかったのかもしれない。しかし、トランプ大統領はファイザーをはじめとする製薬会社の開発努力を選挙の駒としてきた。今年の夏にはワクチンの完成が近いと言うことを発表したし、大統領選挙でのバイデン候補との討論会でも、ファイザーの名前を出してワクチンの完成は近いと言うことを発表した。これはコロナ禍への連邦政府の無策を非難されていることに対するトランプ大統領の反論だったわけだ。
ファイザーは10月末までの治験の結果の発表を目指していたようだが、結果的には選挙後になった。多分、10月末にはトランプ大統領側から治験の結果発表の強い要請があったことは想像に難くない。選挙後になったことは、意図があったのか、なかったのか興味が尽きない。ほぼ僅差の選挙結果で、コロナウイルスの対策に有効なワクチンの完成は選挙結果に大きな影響があったとも思える。
日本政府はファイザー、モデルナ、アストラゼネカから1億人分のワクチンの供給を受ける契約を進めている。時期としては、来年の前半が目指されているが、ファイザーの治験の成功により、これが現実に近づく。
しかし、問題はこの3社の製造能力だ。当然のことながらファイザーにしても、どこにしても自国の政府への供給を優先するから、日本への供給分は後になる。日本の企業が関係して開発しているのは、モデルナで武田製薬が共同で開発している。これが最も早く日本に供給されるワクチンになるかもしれない。こちらの開発状況がどうなっているかは、今はわからない。ファイザーのワクチンに効果があるのであれば、企業の壁を乗り越えて、人類の危機のために技術の提供を行い、一度に大量生産を行ってもらいたいものである。
来年の前半にワクチンの供給が始まるかどうかが、非常に重要だ。既に世界の死者の数は120万人を超えている。1日も早い対策を多くの国が待っている。120万人の死者と言う前では瑣末なことだが、来年の前半にワクチンが供給されていれば、7月のオリンピックの開催は現実的になる。そうなってほしいものだ。