新学期が始まると新しいクラスでアンケートをとる。その項目に、使用しているこSNSを聞く欄がある。先学期あたりから「BeReal(ビーリアル)」が登場して、今学期は利用者が増えた。人気が出てきているようだ。しばらく前に使っている学生に見せてもらっていたので興味を持っていた。BeRealは、InstagramやTikTokのような、“映え” を追求した写真投稿が主流のSNSではない、新しい動きであることは明白だ。
BeRealは、1日に1回、ランダムな時間に通知が届き、その通知が届いてから2分以内に、加工なしの写真を投稿するというシンプルな仕組みだ。 しかも、フロントカメラとバックカメラで同時に撮影されるため、「その瞬間のありのままの姿」を共有することになる。
BeRealの主な特徴は以下の通り
- 1日1回のランダムな時間に通知
- 2分以内の投稿
- 前面・背面カメラの同時使用
- 写真の加工・編集不可
- 古い投稿は自動的に消去
- フォロワー数や「いいね」機能がない
では、なぜBeRealは人気を集めているかを考えてみると、「映え」や「リア充」強調などの「盛った」虚構の世界から離れて、 「リアル」への欲求を満たすサービスだからだと考えられる。
InstagramなどのSNSでは、フィルターや加工によって理想的な自分を演出し、いいねやフォロワー数を競う傾向がある。しかし、BeRealではそのような 「虚構」は存在しない。ありのままの自分、ありのままの日常を共有することで、ユーザーは、友人との「本当の繋がり」を感じることができる。
BeRealの人気を分析すると、以下の3つのポイントが挙げられる。
フィルターバブルからの脱却
従来のSNSでは、アルゴリズムによって自分に都合の良い情報ばかりが表示される 「フィルターバブル」現象が問題視されていた。しかし、BeRealではランダムな時間に、ありのままの瞬間を共有するため、フィルターバブルから解放され、多様な世界に触れることができる。
承認欲求からの解放
いいねやフォロワー数を競うSNSでは、常に 「他人からの承認」を求める傾向がある。BeRealでは、そのような競争から解放され、「自分らしくいること」や日常を重視する価値観が支持されている。
FOMO(取り残され感)からの解放
SNSを見ていると、自分が楽しい体験をしていない時に、他人が楽しんでいる様子を見て、取り残されているような気持ちになる FOMO (Fear Of Missing Out)を感じる人も多い。BeRealでは、みんなが同じようにランダムな時間に、ありのままの瞬間を共有するため、FOMOを感じにくい。
BeRealは、このように現実の学生生活などでリアルに友達と繋がりたいという欲求を満たしているようだ。しかし、BeRealにもリスクがないわけではない。
BeRealの危険性やリスク
プライバシーの問題
BeRealでは、前後のカメラを同時に使用するため、意図せずプライバシーを侵害してしまう可能性がある。例えば、自宅の住所や家族、友人など、見せたくないものが写り込んでしまうリスクがある。また、投稿を削除できるとはいえ、一度共有された情報がどのように拡散されるかはコントロールできない。問題のある投稿のスクショが撮られて拡散してしまうこともある。
依存症のリスク
FOMO効果により、ユーザーは毎日の通知に敏感になり、アプリを使い続けることが習慣化される可能性がある。ランダムな時間に通知が来るから、授業中やテスト中ということもあり得る。若者はSNSへの依存が高まりやすく、通知を逃さないように常にスマホをチェックするという行動が、さらにストレスになり精神的な健康に悪影響を与えるかもしれない。
コンテンツの圧力
BeRealは「リアルな瞬間」をシェアすることを目的としているが、その「リアル」を見せることにもプレッシャーを感じるユーザーがいるかもしれない。毎日通知が来るたびに「何か面白いものをシェアしなければ」という無意識のプレッシャーを感じてしまうかもしれないからだ。これが、リアルを装うための虚構を生み出す無駄な努力が続き、疲れてしまうだろう。
リアルタイムの位置情報共有リスク
BeRealではリアルタイムでの写真投稿が推奨されるため、ユーザーがどこにいるのか、何をしているのかが特定されやすい状況が生まれる。これにより、悪意を持った第三者に狙われるリスクも考えられる。例えば、空き巣にとっては最大の情報源となる。部屋に何があり、部屋にいない時間も明白になるからだ。
生成AI時代の人間味
AIが生成した映像・画像や文章が、インターネット上に溢れかえる時代となった。そんな中、BeRealはAIとは真逆をいく、人間らしさ、リアルさを追求するSNSとして登場して人気を集めるのは理解できる。
AIによって生成されたコンテンツは、驚くほどの完成度を持つ。実際にYouTubeなどの動画の何割かはAI生成であることがよく分かる。しかし、それは、あくまで 「作りもの」 であり、完成度は高くても、そこに 「人間の体温」を感じることは難しい。
一方、BeRealは、フィルターや加工を許さない。2分以内に撮影された、ありのままの姿こそが、その人の 「リアル」を映し出すという設定だ。AIが作り出す完璧な世界とは対照的に、BeRealは演出のない不完全さをありのままに見せる。それが、AI時代において新たな価値となったのがBeRealなのだろう。