ストリーミングが逆転

by Shogo

NYTの記事によれば、2025年5月にアメリカのテレビ視聴において歴史的な転換点が訪れた。それは、ニールセンの調査によると、ストリーミングサービスの視聴率が初めて従来のケーブルテレビと地上波放送を合わせた視聴率を上回ったことだ。もはや、ストリーミングサービスは、もはや「未来のテレビ」ではなく、「現在のテレビ」となった。

ニールセンが2021年にストリーミング視聴率と従来のテレビ視聴率の比較を開始した当初、両者の差は歴然としていた。当時、テレビ視聴時間の約3分の2がケーブルと地上波放送に費やされ、ストリーミングはわずか26%に過ぎなかった。しかし、4年でその差は完全に逆転し、2025年5月にはストリーミングがテレビ視聴全体の44.8%を占め、ケーブルテレビの24.1%と地上波放送の20.1%を合わせた44.2%をわずかに上回った。

この背景と要因は、いくつか指摘されている。

まず、高齢視聴者の移行だ。ストリーミングサービスの初期において、若年層が中心であった。しかし、今回の逆転の要因は、65歳以上の高齢視聴者たちだったようだ。この年齢層は、他のどの年齢層よりもテレビを多く視聴し、全テレビ視聴の約3分の1を占めている。彼らが無料で視聴できる広告付きストリーミングサービスを積極的に視聴している。2023年以降、65歳以上の視聴者はテレビでYouTubeを視聴する最も成長する年齢層となった。

この無料広告付きストリーミングサービスの人気が、ストリーミングの成長の原動力だ。高齢視聴者たちは、Tubi、Roku、Plutoなどの無料広告付きストリーミングサービス(FAST)を特に熱心に見ているようだ。FASTは、Free Ad Supported TVの略だ。2025年5月、これら3つのサービスだけで全年齢層のテレビ視聴時間の5.7%を占め、Disney+とHuluを合わせたシェアを上回っている。

もう一つの要因は、アメリカのテレビ視聴の中心だったケーブルテレビが衰退したということのようだ。ケーブルテレビの視聴率は、過去4年間で地上波放送よりもはるかに大きく落ち込んでいる。ニールセンによると、全体で39%も減少した。

それは、USA、TBS、MTVなどのケーブルネットワークがオリジナル番組を制作しなかったことが原因だ。これらのチャンネルは、「Law & Order: SVU」、「The Office」、「Jaws」などの旧作番組のマラソン放送をするだけの存在になった。これに伴い、視聴者は離れ始め、広告主も同様だ。現在、NBCユニバーサルとワーナー・ブラザース・ディスカバリーはケーブル事業から完全に撤退しようとしており、両社ともケーブル保有の大部分を別会社に分離した。

そして、ニッチなストリーミングサービスの台頭もストリーミングの成長の要因となった。Hallmark+、BritBox、Crunchyrollなどのニッチなストリーミングサービスへの加入が過去数年間で急増しており、かつて専門ケーブルネットワークが担っていた役割を埋めるようになっている。これらのサービスは、特定の視聴者層に特化したコンテンツを提供することで、従来のケーブルテレビが失った視聴者を獲得している。テレビ視聴のロングテールということだろう。

このような状況を受けて、アメリカでは「コードカット」(ケーブルテレビや衛星テレビの有料契約を解除して動画配信サービスにシフトすること)が急速に進んでいる。Convergence Researchによると、2025年までにコードカット世帯の割合は72%に達すると予測されている。これは2022年の53%から大幅に増加する見込みだ。

しかし、ケーブルテレビと比較して、地上波放送は意外にも回復力しているようだ。過去4年間で20%の減少にとどまり、ケーブルテレビの半分程度の落ち込みだった。地上波放送の需要は底堅いということのようだ。

しかし、地上波放送の目玉となってきた大型イベントでさえ、もはや地上波放送の専売特許ではなくなっている。例えば、NBCはオリンピック中継を自社のストリーミングサービスであるPeacockで大々的に宣伝した。また、アカデミー賞授賞式は3月に初めてHuluでストリーミング配信された。

視聴が伸びたのは、NetflixとYouTubeだ。。Netflixは映画やテレビ番組のストリーミングでストリーミング分野の先駆者となっている。2025年5月、Netflixは全テレビ視聴時間の7.5%を占めた。Netflixを上回る唯一はYouTubeで、全テレビ視聴時間の12.5%を占めている。YouTubeはアメリカでのテレビ視聴時間の約10%を占めており、その影響力は増大を続けている。

日本市場

日本においても、ストリーミングサービスの普及は着実に進んでいる。インテージの調査によると、2022年4月の時点で、日本で稼働しているテレビの30%がすでにインターネットに接続されたコネクテッドテレビ(CTV)となっているそうだ。さらに、現状のトレンドが継続すると仮定した場合、2025年には全テレビのうち43%がコネクテッドテレビになり、コネクテッドテレビにおける配信動画視聴の割合は47%まで増加すると予測されている。

ストリーミングサービスの台頭に伴い、広告市場も大きく変化を始めた。従来のテレビCMからストリーミング広告へのシフトが急速に進んでいる。ストリーミングTV広告市場は、まだ規模は小さいもの拡大している。

ストリーミングサービスにおける広告は、従来のテレビCMとは異なる特性を持っている。ストリーミングTV広告は、伝統的なテレビ広告といくつかの共通点を持つが、OTTが提供するリッチな視聴データを活用することで、特定の視聴習慣を持つユーザー層をきめ細かくターゲットとすることが出来る。

TVer広告とテレビCMを比較すると、テレビCMが全視聴者に同じ内容を一斉に放送するのに対し、TVer広告のようなストリーミング広告は、テクノロジーを活用して視聴者ごとにパーソナライズされた広告を配信できる。

アメリカでストリーミングサービスがテレビ視聴の中心となった今、メディアは新たな時代に突入した。この変化は視聴プラットフォームの移行というだけでなく、コンテンツ制作、配信、そして広告のあり方を根本から変えるパラダイムシフトだ。この変化は広告業界にも大きな影響を与え、広告主はターゲティングの精度向上や高い視聴完了率などのメリットを享受できるストリーミング広告への予算シフトを加速するだろう。

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