AIと広告ビジネス

by Shogo

インターネットの歴史の転換点が来ている。Googleのような検索エンジンがウェブサイトのコンテンツを無料で収集し、その見返りとしてユーザーをウェブサイトに送客するという、約30年間にわたってウェブビジネスの生態系を支えてきた習慣が変わろうとしている。これまでは、68%のインターネット活動は検索エンジンから始まり、検索の約90%はGoogleで行われてきたというが、その検索の転換点にある。

ChatGTPやGoogleが導入した「AI Overviews」や「AIモード」といった新機能は、この長年の検索の仕組みを破壊しようとしている。それは、これらのAIは、もはやユーザーを情報源のウエブサイトへと案内するのではなく、ウェブ上のコンテンツを吸収・要約し、検索結果ページ上で直接、答えを提供してしまう。これにより、ユーザーはAI内に留まり、ウェブサイトへの訪問動機を失うことになる 。  

この変化は、単なるユーザーインターフェースの変化ではない。それは、この新しいインターネット環境では、ウェブコンテンツは人間が読むためではなく、AIが読み込み、要約するために作られるようになるということだ。ウェブは人間同士のコミュニケーションの場から、人間とAI、あるいはAI同士の対話の場へとその姿を変えようとしている。

「ゼロクリック」時代

AI検索の台頭は、単にテクノロジーの進化に留まらず、ユーザーが情報を求める際の根本的な行動様式と思考プロセスを劇的に変える。従来の検索において、ユーザーの目的は「答えが書かれているウェブページへのリンクを見つけること」であった。しかし、AI検索、特にGoogleのAIによる概要(AIO)やChatGPTのような対話型AIは、このパラダイムを根底から覆した。今やユーザーの目的は、検索結果ページ上で直接「答えを得ること」へと変化している 。AIが複数の情報源から要約された答えを即座に提示するため、ユーザーがわざわざリンクをクリックして外部のウェブサイトを訪れる必要性は低下した。   

この変化は、ユーザーの負荷を軽減し、利便性を飛躍的に向上させる一方で、ウェブサイトへのトラフィックという、長年ウェブエコシステムを支えてきた広告費の生命線を脅かす。ユーザーはもはやウエブ上の探索者ではなく、単なる答えの受領者となりつつある。この行動変容こそが、「ゼロクリック検索」の増加とトラフィック激減の根本的な原因となっている。誰もクリックせず、AIの回答画面だけで、目的が達成されるからだ。

AI検索革命は、ウェブサイトのトラフィック構造だけでなく、その収益の根幹をなすデジタル広告ビジネスのモデルそのものを揺るがす。長年続いた、検索連動型広告のクリックベースの広告経済は崩壊の危機に瀕し、Google、広告主、そしてメディアは、新たな収益モデルの再構築を迫られている。

従来の検索連動型広告やディスプレイ広告のビジネスモデルは、ユーザーが検索結果のリンクをクリックし、広告が掲載されたウェブサイトを訪問するという行動を大前提としていた。しかし、AIがウェブをクロールする主要な「読者」となり、人間であるユーザーが検索結果ページから離れなくなるにつれて、この前提は崩壊する。

AIがコンテンツを要約して直接答えを提示する世界では、ウェブサイトへの訪問者数が激減する。これは、ウェブサイト上に表示される広告のインプレッション数とクリック数が減少し、メディアやコンテンツ配信者の広告収入が枯渇することを意味する。30年近くウェブの成長を支えてきた広告ベースの収益モデルが、その基盤を失いつつある。

しかし、公告企業のGoogleが、広告ビジネスを放棄するわけではないだろう。むしろ、AIが生成する「答えそのもの」を新たな広告スペースとして収益化する戦略を検討中だという。

Googleの新たな広告フォーマットは、AIによる概要やAIモードの回答の中と下に、検索広告やショッピング広告を挿入することが発表されている 。これは、広告が単なる検索結果の付随物ではなく、AIが提供する回答の一部として、より文脈に即した形で提示されることを意味する。例えば、犬と長距離フライトという情報探索型の検索に対し、AIの回答内に「機内持ち込み可能な犬用キャリー」のショッピング広告が直接表示されるようになる 。   

また、これらの新しい広告枠へのアクセスは、主に「Performance Max(P-Max)」のような自動化された広告キャンペーンを通じて行われるという 。広告主は、キーワードを手動で設定するのではなく、ビジネス目標を設定すれば、GoogleのAIが最適な場所に広告を自動的に配信する。これは、広告運用のブラックボックス化が進み、広告主のコントロールが及ばなくなる一方で、GoogleのAIエコシステムへの依存度をさらに高める動きと言える。

これらの広告挿入方法は、先に発表されているPerplexityの広告運用と一部重なる部分がある。どう考えても、AIと広告を共存させるためには、他にはアイディアがないということだろう。

だが、これは広告の持つアテンション機能の喪失を意味する。この機能を代替するメディアとして、マスメディアや一般的な内容のウエブメディは命脈を保つということになるのかもしれない。この結果、予想されるのはインターネット広告の急成長時代が終わり、マスメディアとインターネットメディアの広告費近郊時代が来るのかもしれない。

AI時代のインターネット広告

AI技術の進歩は、ウェブの世界に根本的な変革をもたしている。従来の「検索エンジン最適化」から「AI最適化」への転換、広告モデルの革新、ユーザー行動の変化など、あらゆる側面で新しいアプローチが求められるようになるだろう。

だが、まだ、その解は見えていない。検索の初期に検索連動型広告が開発されたように、今後数年間で、AI技術とうまく共存し、新しいビジネスモデルを構築できる広告ビジネスが登場するのではないかと考えている。

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