PayPalが、デジタル広告の新たな形として「Storefront Ads(ストアフロント広告)」を発表した。これは、従来のオンライン広告を単なるクリック誘導型から「その場で購入できる」実店舗のような体験へと進化させる画期的な広告フォーマットだ。
Storefront Adsは、PayPalが持つ膨大な取引履歴と決済インフラを活用し、広告枠の中に直接「おすすめ商品」と「今すぐ購入」ボタンを組み込むことができる。ユーザーは閲覧中のウェブページやアプリから離れることなく、広告内でそのまま商品を選び、PayPalやVenmoで即座に決済を完了できる。購入後は、元のコンテンツに戻ることができ、ウエブ閲覧の中断がない。この広告は、パソコン、スマートフォン、さらには、あらゆるデバイスやプラットフォーム上で展開可能になるという。
この背景にあるのは、AIエージェントがユーザーに代わって商品を探し、購入をサポートするエージェント購入が拡大しようとしているからだ。この流れの中で、消費者が直接、広告主や小売業者のウェブサイトを訪れる機会は減少し、従来型のEC集客やブランド体験の希薄化が課題となって行くと考えられている。
もう一つは、Amazonや楽天などのオンライン小売業者が自社の顧客データを活用して広告事業を展開する「リテールメディア」が急成長していることだ。この分野は成長が著しく、Amazonは、Google、Metaに次ぐ、広告売上を計上している。Storefront Adsは、広告主が小売業者のサイトだけでなく、オープンウェブ上の様々なメディアに「店舗」を構えることを可能にするため、このリテールメディアの広告事業に食い込もうと考えている。
この新しい広告形式が、広告ビジネスへ与えるインパクトがいくつかある。
1. 広告の新たな価値創出
Storefront Adsは、広告を単なる認知や誘導の手段から「即時購買」へと変える。これにより、広告主は従来のクリック数やインプレッション数以上の「購買成果」に直結したROI(投資対効果)を期待できる。
PayPalは4億人以上の消費者と3,000万以上の加盟店から得られる購買データを活用し、極めて精度の高いターゲティングやパーソナライズを実現できる。これにより、広告主は、どの消費者が、どのタイミングで、どの商品に興味を持つかを高い確度で把握し、最適な広告配信が可能となる。
2. リテールメディアネットワークへの参入
PayPalは金融機関として初めて、本格的なリテールメディアネットワーク(RMN)に参入した。自社の決済プラットフォームだけでなく、提携メディアやウエブメディア(例:Business Insider、Vox Media)と連携し、広告枠の拡大を図っている。
これにより、PayPalはAmazonやWalmartなどの大手小売業者だけでなく、金融・決済事業者としても広告市場で存在感を高めていくことができる。
3. ウエブメディア側のメリット
メディアにとっても、Storefront Adsは新たな収益源となる。読者がコンテンツを閲覧しながら、その場で購買まで完結できるため、従来のバナー広告やアフィリエイトよりも高いエンゲージメントと収益性が期待できる。っこのために、Business InsiderやVox Mediaなどが早期導入を表明している。これがうまく言えば、メディアは増えていくことになるかもしれない。
PayPalは今後、Storefront Adsのフォーマットを拡張し、動画広告やセルフサーブ型広告管理ツールの提供も予定しているそうだ。また、英国やドイツなど欧州市場への展開も計画中という。
Storefront Adsは、広告とECの境界をなくし、「広告=その場で買える店舗」へと進化させる。PayPalの膨大な決済データとAIを活用したパーソナライズ、ターゲティングを強みとて広告を変えるだろう。
この新しい広告は、広告主にとっては「認知」から「購買」まで一気通貫のROIを追求可能になる。そして、メディアにとっても新たな収益源・体験価値の向上となる。このようなことから、うまく行けば、今後の広告ビジネスに大きなインパクトを与えることは間違いない。