AI広告が広告を大きく変えるという計画をOpeAIとMetaが進めている。広告に、「予測」と「生成」が組み込まれるそうだ。これまでのネット広告の行動ターゲティングやリターゲティングは、基本的に過去の行動を追いかける発想の延長線上にあるが、予測と生成が入ると、広告は時間軸と広告の見え方そのものを変えてしまう。
OpenAIの予測型AI広告
従来の行動ターゲティングは、スニーカーを検索した人にスニーカー広告を出すという、因果関係が分かりやすい仕組みだった。つまり、何かを見たから関連する広告が出る。だが、AIが入ると。「過去の履歴なく出る広告」へ変わる。AIによる予測モデルが、「まだ検索していない人」がターゲットに変える。
過去の閲覧履歴も使うが、
- ・時間帯
- ・デバイスの使い方
- ・アプリ間の移動パターン
- ・類似ユーザーの行動傾向
などを束ねて、「このタイミングでこの人に見せると、買う確率が跳ね上がる」という予測を行う。
その結果、広告は「行動の結果」ではなく「行動のきっかけ」になる。ユーザーからすると、「そういえばそろそろ買おうと思っていた」と感じるタイミングで、ちょうど良い提案が差し込まれる。
ここで怖いのは、本人は「自分で思いついた」と感じているのに、実際にはモデル側が先に「思いついて」いる可能性が高い、という点かもしれない。
OpenAIは、週8億人が利用するChatGPTに組み込まれた新しいウェブブラウザ「ChatGPT Atlas」を発表した。これは単なる検索ツールではない。ユーザーの検索履歴、チャット内容、カレンダーアプリと連携し、購買を自動化するブラウザだ。
Atlasは、旅行の予定が日記に記録されていれば、頼んでもいないのに、この街ではここで食べるといいよとか、ホテルの提案してくる。さらに「エージェント・モード」では、「先週見た水着、サイズ14でカートに入れといて」と頼めば、AIが過去の閲覧履歴から探し出して購入手続きを進めてくれる。
従来のGoogle広告が「テキスト広告」「ショッピング広告」と明確に区分されていたのに対し、ChatGPT広告は会話の中にシームレスに織り込まれる。キーワード対応ではなく、リアルタイムの会話文脈に基づいて、高度にパーソナライズされた提案が差し込まれる。
具体的は以下のようになる。
従来のGoogle広告は
- ユーザーが「スニーカー」というキーワードを検索
- そのキーワードに対して入札された広告が表示される
- 基本的に「検索クエリ」と「広告のキーワード」のマッチング
ChatGPT型の広告は
- ユーザーが「来月、友人の結婚式があって、久しぶりにフォーマルな場に行くんだけど、どんな靴がいいかな」と会話
- AIは「結婚式」「フォーマル」「久しぶり」という文脈と、おそらくユーザーの過去の会話履歴やスタイルの好みも加味して
- 「この革靴はどう?フォーマルだけど、履き慣れていない人でも疲れにくい設計だよ」と、文脈に沿った自然な提案として広告を差し込む
つまり、単一キーワードへの反応ではなく、会話の流れ・意図・背景を総合的に解釈した上で広告が織り込まれる。単純なキーワードマッチングではなく、会話の文脈全体を解釈した上での広告ということのようだ。
OpenAIは、広告モデルを検討中と明言し、MetaやGoogleから広告専門家を採用した。ただしCEOのサム・アルトマンは、GoogleのGemoni 3.0の登場で社内メモで「コードレッド」を宣言し、ChatGPTの改善を優先して広告などの取り組みを一時延期すると伝えている。
OpenAIが検討している広告フォーマットには以下がある:
- スポンサー付きカルーセル:ショッピングや旅行の質問に対して、提携ブランドの商品を優先表示
- アフィリエイト型の商品提案:購入リンク付きで自然な会話の中に織り込む
- ブランドチャットボット:「バーチャルExpedia担当者」のように、特定企業の窓口をChatGPT内に埋め込む
無料ユーザーには広告が表示され、ChatGPT PlusやEnterpriseプランは広告なしになる可能性が高い。ラベルは付けられるが、「sponsored」という表記だけで、どこまでが本当の推奨でどこからが広告なのか、ユーザーが判断するのは難しくなるだろう。
AI駆動のブラウザ市場は、2024年の45億ドルから2034年には768億ドルに拡大すると予測されており、Atlasはその中心に位置する。消費者の65%が「従来の検索エンジンよりChatGPTのようなツールを使う予定」と答えており、マーケターにとって、GoogleやFacebookに次ぐ「第三の広告プラットフォーム」が誕生しつつある。
Meta
Metaの計画もすごい。マーク・ザッカーバーグは「広告主は目標と予算だけ出せばいい」と言っている。彼によると、Metaの広告の未来は、以下のようなことだ。
広告主はビジネス目標と支払い情報を入力するだけで、あとはAIがすべて処理する。商品画像と動画の生成、広告コピーの作成、無数のバリエーションの制作、ユーザーへのターゲティング、パフォーマンス分析、そして改善。最終的には、顧客はMetaのシステム内で直接購入まで完結する。
さらに驚くのは、ユーザーがMeta AIと交わした会話内容が、広告ターゲティングに使われるという発表だ。2025年12月16日から、FacebookやInstagram、Threads上でMeta AIとやり取りした内容が、広告やコンテンツのパーソナライゼーションに利用されるようになっている。10月7日から通知が始まったが、オプトアウトはできない。Meta AIを使うなら、データは全て利用させてもらうということだ。オプトアウトできないというから確信犯だ。
Meta AIは2025年5月時点で月間アクティブユーザー10億人を突破しており、ザッカーバーグは「パーソナライゼーションがMeta AIの中核」と強調している。つまり、ユーザーがAIアシスタントに相談した悩みや計画、趣味の話は、すべて広告配信の材料になる。
Ticketmasterはすでに、閲覧者によって応援チームが変わる「バーチャル家族」を使ったAI生成Facebook広告を配信しているそうだ。次のステップは、ユーザーの写真を使った超パーソナライズ広告だ。
それは、友人に表示される広告にユーザーのプロフィール写真を使うことだ。Metaは、この実験をすでに行っている。ユーザーの写真が広告にデジタル合成され、「あなたの友人もこの商品を使っています」というメッセージで配信される未来は、技術的には既に可能だという。ただ、これについては、本人がオプトインするのだろうか。そのメリットは何だろうか。広告費の配分を受けられるのだろうか。この点については、まだ単なる推測なので詳細も不明だ。
両社に共通する方向性
OpenAIもMetaも、共通して目指しているのは「広告が広告に見えない世界」だ。
OpenAIの考える広告は、会話の中に自然に織り込まれた提案が、広告なのか本当の推奨なのか区別できない。Metaは、個人の心理プロファイルに基づいて生成された動画が、友人の投稿やコンテンツと見分けがつかない広告になっている。
従来の広告は「sponsored」と明記され、ユーザーは警戒できた。しかし新しい広告は、AIアシスタントの親切な助言として、あるいは友人が「いいね」したコンテンツとして現れる。全員が異なる提案を受け取るから、「これ、広告じゃない?」と確認する手段もない。
ザッカーバーグが描く未来では、クリエイティブ制作も配信も分析も、すべてAIが担う。広告業界全体の仕事の流れが根本から変わる。OpenAIのAtlasは、ウェブブラウジングとAI対話データを一か所に集約し、高度にターゲット化された広告を可能にする。
広告とコンテンツを認識できる境界が消える未来に向かっている。
