DDB、FCB、MullenLowe消滅

by Shogo

広告業界に長く働いた身には、今回のOmnicom再編のニュースに、寂しい感じがして、時代の変化を感じた。耳慣れた「FCB」「DDB」「MullenLowe」などの名門エージェンシーの名前が消えるからだ。これらの会社は、2026年までに、グループ内の別会社に統合され消滅する。

DDBは1949年、ビル・バーンバックが共同創業した。バーンバックが確立したクリエイティブ革命の象徴として、「Think Small」(1959年)や「Wassup?」(1999年)など数々の伝説的キャンペーンを世に送り出してきた。「Think Small」のキャンペーンは授業でもよく取り上げる、広告業界の伝説だ。

FCBに至っては1873年創業、実に150年以上の歴史を持つ広告ビジネスの老舗中の老舗だ。オレオの「Daily Twist」やスポーツイングランドの「This Girl Can」といったキャンペーンで、多くの賞をとってきた。これらのエージェンシーが消えるということは、広告業界の記憶と文化そのものが、企業統合の論理に飲み込まれると言うことだ。

再編成の中心には、オムニコムのデータプラットフォーム「Omni」があると言う。これに、IPGが2018年に20億ドルで買収したデータマーケティング企業Acxiomを統合することで、26億の認証済みグローバルIDと数兆のデータポイントを統一し、クッキーに依存しない次世代のターゲティングシステムを構築する。これはPublicisがEpsilonで実現したデータ戦略への対抗策だ。広告ビジネスの競争軸は、もはやクリエイティブの質だけでなく、誰が最も精緻な消費者データを握るかというデータ覇権へと完全にシフトしている。​

統合によってスケールメリットは得られるものの、専門知識が希釈されるのではと懸念される声もあるようだ。かつてDDBやFCBが持っていたユニークなクリエイティブDNAは、BBDO、TBWA、マッキャンという3つのグローバルネットワークに吸収され、効率性の名の下に個性が失われる可能性が高い。​広告業界に限らず、企業は効率化では駆動しない。その企業の文化や歴史、それをDNAというのかもしれないが、大きく働く。

今回の再編成に伴い4,000人の追加人員削減が進行中だという。大手エージェンシーではすでに人材離職率が深刻な問題となって統合後には、クライアントは担当者の交代やサービスモデルの変更に直面する。特に中小規模のクライアントは、巨大化した組織の中で優先度が下がり、かつてのフルサービスからセルフサービス型へと格下げされるリスクがある。​今後、クライアントの移動が起こってゆくだろう。

今回の統合は、生成AIが広告制作の主役となる時代が来たタイミングと重なる。AIによってクリエイティブの大量生成が可能になり、人間のクリエイターには、量ではなく文化的文脈の理解、共鳴、倫理的判断といった、機械では代替できない領域での価値が求められている。

データに基づいてAIが大量の広告を制作して、A/Bテストを続ければ、優秀な人間のクリエイティブは不要だという論理だ。オムニコムが「Omni」によりデータとAIに傾倒する戦略は理にかなっているが、そこに人間のインプットや判断をどう保つかが問われる。​

広告業界は効率化と創造性、データと人間性、スケールと個性——こうした相反する価値観の間で揺れ続ける。名門エージェンシーの消失は、その葛藤の象徴なのかもしれない。

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