AIの国籍

by Shogo

DeepSeek R1ショックが起こって1年が過ぎている。この間に、中国のAIが多くのサービスで使われているようだ。例えば、Pinterestは、中国のAIモデルを実験的に導入し、レコメンドエンジンの精度を上げているという記事を読んだ。

なぜ米国企業がわざわざ中国のモデルを選ぶのか。答えは単純だ。2025年1月にリリースされたDeepSeekのR1モデルは、OpenAIのo1に匹敵する性能を持ちながら、運用コストは数分の一で済むという。Pinterestによれば、オープンソース技術を使った内製モデルは市販品より30%精度が高く、コストは90%も安いそうだ。AirbnbのCEOも「とても優れていて、速くて、安い」と、Alibabaの「Qwen」モデルへの依存を明かにしている。

配布形態の変化が単純な二択を崩す

ここでは「中国AI=危ない」という単純な図式が、成立していない。DeepSeekのように重み(weights)を公開するモデルが登場し、企業が自社環境にダウンロードして動かせるようになったからだ。すると、入力データが、外部APIへ送られるタイプのプライバシー不安は、設計次第でかなり減らせる。オープンソース化されたモデルをローカル環境で動作させれば、外部サーバーとの通信は発生しない。これで、安全性が担保されている。オープンソースで公開されているからこその利点だ。

ただし、ローカル運用は、万能の免罪符ではないそうだ。DeepSeekのアプリは韓国で新規ダウンロード停止措置が取られ、オーストラリア政府も注意喚起を行ったという。モデル自体に組み込まれた検閲・バイアスが消えるとも限らないということのようだ。つまり論点は中国か米国かではなく、どのリスクを、どの運用で潰すかに移っているようだ。この問題が、どのように解決できるかだが、韓国やオーストラリアの例から見られるように完璧には難しそうだ。

AIの国籍がUIから消える未来

それでも、普及の力学が、中国に有利に傾く可能性は高いと見込まれているようだ。読んだ記事では二つ理由が挙げられていた。

第一に、コスト曲線が強力に効くと言う。オープンウェイトなら、企業は自社GPU/クラウドに載せ替え、最適化し、特定用途に寄せた微調整までできる。Pinterestも「オープンソースを使った内製・運用で、コストを10%未満に抑えられる」と公表している。

第二に、配布が簡単なようだ。Hugging Faceの統計では、Alibaba(Qwen)がダウンロード存在感を強め、Qwen系モデルが「最もダウンロードされるLLM」になっている。2025年9月には、QwenがMetaのLlamaを抜いてトップに立ったという。スタンフォード大学の報告書は、中国のオープンウェイトAIが多様なプレイヤーに支えられ、中国政府の支援も背景にあると推測している。

この二つが合わさると何が起きるか。多分、誰もAIの国籍を気にしなくなるだろう。ユーザーが触るのは便利な機能であり、その裏のモデルがQwenかDeepSeekかは見えない。気づいた時には、企業の基盤の下層に中国系オープンモデルが混ざっていても不思議ではない。

収益化に追われる米国勢

一方、米国企業はコストに見合う収益が課題だ。OpenAIは2025年夏にオープンソースモデルを公開したが、ビジネスモデルの重心は、クローズドな上位モデル+課金に置かれ、ついに広告モデルのテストへ踏み出した。サム・アルトマンCEOは巨額投資の必要性を述べており、それを賄うために、2026年までに広告収益だけで250億ドルを達成すると予測されている。

元Meta幹部のニック・クレッグは、米国企業がスーパーインテリジェンスという漠然とした目標に過度に投資していると指摘している。彼の言う、民主主義の国であるアメリカが独占を図る一方で、世界最大の独裁国家である中国が技術を民主化しているという皮肉は、現実をよく言い当てている。

スタンフォードの報告書では、中国のAIモデルが能力と利用者数の両面で追いつき、あるいは追い越した可能性があると指摘する。DeepSeekは中国市場の約89%のシェアを占めるとされる。中国の人口と経済規模を考えると、世界規模でも大きなシェアを持っているだろう。

流通の問題としてのAI覇権

中国モデルが普及してしまう未来は、イデオロギーではなく、利用の問題に見えてくる。高性能で、速くて、安い。しかも、ローカルにダウンロードしてカスタマイズして使える。この条件が揃うと、多くの現場では強い。皮肉にも、米国による半導体輸出規制が中国企業の革新を促した。制約を抱えた中国企業は効率を優先し、限られたリソースで開発してきた結果が、安くて効率の良い実用性の高いAIを産んだ。

AIをめぐる競争の焦点は、もはや性能だけでなく、アクセスのしやすさとコストにシフトしている。米国AI開発企業は、収支のバランスのために、クローズで高価格の料金体系を持つ。この結果、多くのサービス提供企業が安価で高性能な中国製モデルをローカル環境で利用し始める可能性は否定できない。もしそうなれば、AI普及の主役は、閉鎖的な米国のモデルではなく、オープンソースとして世界に開かれた中国のモデルになるかもしれない。

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