MetaのManus戦略

by Shogo

Metaが、InstagramやFacebook、WhatsAppで「プレミアム課金」を試すという記事を読んだ。ここから、SNSの方向転換がはっきりしてきた。SNSはずっと無料の広場だった。場を提供して、無料の参加者を集め、その属性データを収集して広告ターゲットとして売るのがビジネスモデルだ。ところが今、その広場に有料の小部屋を増築し始めているイメージだ。だが、入場料を取るのではなく、居心地や道具立てに値札を付けるような方向だ。

現状の事業構造

Metaは依然として広告の会社である。2025年Q4のFamily of Apps売上は58.9Bドル、そのうち広告が58.1Bドル。その他売上は0.801Bドルにとどまる。その他売上の伸びはWhatsAppの有料メッセージングとMeta Verifiedだ。

広告ビジネスは強い。Q4は広告インプレッションが前年同期比18%増で、デイリー利用者は35億人超。ところが総費用は前年比40%増で、AI人材の採用やインフラ費が押し上げたとされる。儲かっているのに、AI投資などのために燃費が悪くなっている事が分かる。

その他売上は、WhatsAppの有料メッセージング、Meta Verified、決済インフラの手数料など。これは、設備投資も重い。2025年通期の設備投資は約72.2Bドルと開示され、データセンターとサーバーに資本が費やされている。

ここまでを一言でまとめるなら、広告で稼ぎ、AIに突っ込むモデル。広告は景気や規制、社会のムードで揺れる。だから広告の外側に、課金のクッションを作りたくなるのは自然だろう。

Manusの役割

この戦略の中心に置かれているのが、Metaが2025年12月に約20億ドルで買収したAIスタートアップ「Manus」である。Manusは、シンガポールに拠点を置く自律型AIエージェントで、ユーザーの指示を受けてリサーチ、計画、実行、レポート作成までを一貫してこなす「トゥルーリー・オートノマス(真に自律的)」なツールを標榜している。

Manusは買収される前から、立ち上げからわずか8か月で年換算1億ドル超の売上を出していたとされ、企業向けのサブスクリプションとして既に収益化に成功していた。MetaはManusを、(1)自社プロダクトに統合しつつ、(2)企業向けには単体サブスクとしても販売し続ける、という二正面作戦を取る と言う。これはB2BとB2Cの両方で稼ぐ設計である。

Metaが取材で認めたのは、数か月以内に、InstagramやFacebook、WhatsAppの3アプリでプレミアムサブスクをテストし、コア体験は無料のまま、生産性・創造性・AI機能拡張・共有/接続のコントロールを追加料金で提供する、という方針だ。また、各アプリで異なる特典を用意し、バンドルも試すとも報じられている。つまり、広告だけでARPUを上げるのではなく、広告+任意課金で積み上げる仕組みを導入する。

Vibesも新たな商品になる。Metaは2025年9月、Meta AIアプリとmeta.ai上で短尺AI動画を作って共有できるVibesを発表した。最近の報道では、Vibesをフリーミアムに移し、追加生成枠や高度機能を有料で解放する可能性が語られている。生成AIの課金は結局、回数・品質・優先度が料金体型だ。だから、動画生成AIのVibesは値付けがしやすい。

なぜManusが収益戦略の中核になるのか。

ポイントは、Metaが売りたいものが、AIモデルへのアクセスではなく、制作の容易さや時間の短縮だ。それは、Metaの大規模言語モデル「Llama」はオープンソースで無料公開されているため、モデル自体を直接課金することはできない。一方で、SNSの文脈で人課金して良いと思うのは、「自分の時間が節約される」「面倒が消える」「炎上リスクが減る」といった、生活や仕事の快適さに直結する価値である。そこで”、Manusのような、自律的にタスクを進めるエージェントは、課金理由を作りやすい。

Metaは3つの導線を考えている。

クリエイター向けでは、Vibesと組み合わせて「企画→素材生成→編集→投稿→反応の学習」までを一気通貫で自動化する。ユーザーから見ると編集者兼プロデューサーを雇う感覚になり、支払いに納得できる。動画制作に大幅な効率化が実現できるからだ。

一般ユーザー向けでは、Instagramの「research, create, and build with Manus」というショートカットが示すように、調査、制作、プロジェクト支援AIとして段階的に課金する。Instagramを見るアプリから調べる・作る・構築する空間へ拡張するエージェントとしてManusが機能するようになる。

事業者向けでは、WhatsAppにManusを組み込み、問い合わせ対応、予約変更、見積もり、在庫確認、返品対応などを半自動化する。これにより、有料メッセージングと広告収益の両方が押し上げられる。

つまり、Manusは単なる、AI機能の一つではなく、サブスク収益と広告収益の両方を繋ぐ装置であり、同時にB2Bの別収益源でもある、という位置づけになるようだ。

ただし、この戦略にはリスクもある。中国当局がManus買収を、技術輸出管理規則違反の可能性として審査しており、統合のスケジュールや提供地域に制約がかかる可能性がある。規制の動向次第では、収益計画にブレーキがかかるかもしれないという。

作業インフラ」としてのSNS

Metaのこの動きを、もう少し広い視野で捉えると、SNSという概念そのものの再定義が進んでいると見ることができる。

これまでのSNSは、ユーザーに長く画面を見させ、そこに広告を差し込むことで成り立っていた。しかし今回の戦略は、ユーザーが何かを、成し遂げたいと思った瞬間に、その実行を助けるツールとして課金してもらうモデルである。InstagramやFacebookが、仕事・学習・創作の基盤インフラへと変質していくとき、Metaは「広告会社」ではなく、「汎用作業インフラ+広告」という巨大なOSのようなポジションを狙っているように見える。

この転換は、いくつかのSNSの未来を見せる。

ひとつは、広告モデルの階層化である。無料ユーザーは広告に依存したSNS体験を受け、有料ユーザーはAIによる生産性向上とプライバシー・コントロールを享受する、という二層構造が強まる。その結果、同じSNSをプラットフォームとして使いながらも、AIを活用して成長できる層とプラットフォームの変化に受動的にさらされる層の格差が広がる可能性があるだろう。

もうひとつは、サブスク疲れとの戦いである。すでに多くのユーザーは複数のサブスクを抱えており、「SNSのためにさらに払うのか」という抵抗感は強いはずだ。その意味で、ManusやVibesが「払わないと不利になる」「払えば仕事や創作が根本的に楽になる」と感じさせられるかどうかが、MetaのAIサブスク戦略の成否を分けるポイントになる。

参考になるのは、Snapchat+の成功例である。Snapは有料ユーザーを1,600万人以上(月額3.99ドル)まで伸ばしており、2024年初頭から倍増している。これは、「少数でも払う層がいれば事業になる」ことを示している。Metaも、いきなり大衆課金を狙うのではなく、クリエイター/ヘビーユーザー/中小事業者という「払う理由がある層」から細かくすくい取る戦い方を選んでいる。

Metaが描く未来は、「月数百円〜数千円の大衆課金で一気に広告依存を崩す」というものではない。(1)生成枠(Vibes等)でクリエイターからGPUコストを回収し、(2)WhatsApp×Manusで事業者の運用コストを下げつつ既存の有料メッセージングと広告を太らせ、(3)その上で「個人のコントロール課金」を薄く広く積む、という積層型ARPUである。広告の土台の上に「制作」「運用」「安全/信頼」を有料で重ねる。Manusはその3層を横串で繋ぐための説明装置であり、同時にB2Bの別収益源でもある。

この戦略が本当に機能するかどうかは、まだ分からない。だが少なくとも、Metaは「AIをどうマネタイズするか」だけではなく、「SNSがどのような”生活インフラ”に変わっていくのか」を問う実験を始めている。Manusはその実験の中心であり、「AIエージェントが経済活動の単位になる時代」に向けた、かなり野心的な布石だと言えるのではないだろうか。

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