PhotoshopのAI

by Shogo

デジタルで写真を撮り始めたのは、もうずいぶん昔になる。その後、デジタル写真の加工のためにPhotoshopを習いに行った。北京から戻ってすぐだから2009年だろうか。

Photoshopは難しかった。ツールバーに並ぶ無数のアイコンは、ある種の職人の工房を思わせるものだった。マスクを切り、レイヤーを幾重にも重ね、ピクセル単位で色調を整えていく。それは指先と画面が直結したような、緻密な作業の積み重ねだ。友人のレタッチャーの技には驚いたものだ。

しかし、Adobeはウェブおよびモバイル向けに「Photoshop AIアシスタント」のパブリックベータを公開した 。まだ使っていないが、画面に向かって言葉を投げかけるだけで画像が自在に変わっていくそうだ。

言葉が筆に変わる瞬間

新しいPhotoshopの最大の特徴は、自然な「対話」にあるという。複雑なメニュー階層を使いこなす必要はない。モバイル端末を手に歩きながら、音声で「背景の電柱を消して」「照明を夕暮れ風にして」と命じるだけで事足りるらしい。まさに優秀なレタッチャーが常に隣で控えているような機能だ 。

特に特筆すべきは「AI Markup」という機能だ。写真の一部を指でざっくりとなぞり、「ここに花を咲かせて」とテキストを打ち込む。数秒で周囲の光や影の文脈を読んだ自然な花畑が描き出されるという 。テキストと空間認識が組み合わさることで、プロンプトだけでは届かなかった「どこを変えるか」という問題が解決されつつある。すでにスマホで他社が実現していた機能がプロ用のツールにもやってくる。

さらにすごいのは、このアシスタントが単なる作業代行者にとどまらない点だ。全自動で仕上げてもらうこともできれば、ステップバイステップで編集の手順を教わることもできる そうだ。かつて習いに行ったようなワークショップに参加しなくても良いということになる。

拡張し続けるエコシステム

この進化は、AdobeのAI基盤モデル「Firefly」が着実な進化を遂げていることによるものだ。生成塗りつぶし、画像の自然な拡張、ワンクリックでの背景削除などのプロの機能が次々と実装されてきた 。

さらに、興味深いのは、Adobeが自社AIモデルへの囲い込みに固執していないことだ。GoogleのGemini 2.5 Flash Image(通称「Nano Banana」)、OpenAIの画像生成モデル、RunwayのGen-4.5、Black Forest LabsのFLUX.1 Kontext Proなど、25を超えるサードパーティ製AIをFireflyのエコシステムに取り込んでいる 。これは一本の包丁で全てを切ろうとするのではなく、用途に合わせて専門の道具を使い分けるアプローチに近い。ユーザーにとっては、同じPhotoshop環境の中で、そのプロジェクトに最適なモデルを選べるということだ 。

Fireflyの利用量は四半期比32%増、カスタムモデルの成長は68%という数字になっている。Adobeはもはや単体のツールではなく、複数のAIエンジンを束ねる「クリエイティブのOS」になろうとしているのかもしれない。

表現の民主化と、プロフェッショナルの憂鬱

こうした生成AIの波は、クリエイティブ業界を塗り替えつつある。Adobeが世界1万6000人のクリエイターを対象に行った調査によれば、86%が何らかの形で生成AIを利用し、「AIなしでは作れなかったコンテンツを生み出せた」と答えた者が80%にのぼるという 。実際、Photoshopユーザーの3分の2が毎日AI機能を使っているとの報告もある 。数字だけ見れば、この技術は確かに表現の限界を押し広げている。

だが一方で、手放しで喜べない現実もある。プロの写真家やデザイナーの中には、この急激な変化に強い懸念を示す者も少なくない 。学習データの著作権にまつわる法的なグレーゾーン、膨大な計算処理に伴う環境負荷など、彼らが抱く不安は、新しい技術への単なるアレルギーではないと思う。

魔法の杖を手にした先へ

「私の帽子を青くして」。そんな一言から始まる新しいデザインの世界は、圧倒的な利便性と表現の自由をもたらす。Adobeは今後、このAI機能をMicrosoft Copilot 365などの企業向けプラットフォームにも展開していくという 。技術の浸透はさらに加速するだろう。

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