終末時計が示す「」の危機アメリカの科学雑誌「ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ」が発表した「終末時計」は、人類滅亡までの象徴的な残り時間を「89秒前」と設定した。これは2024年から1秒進められ、1947年の時計設置以来、最短となる深刻な状況を示している。
終末時計は、核戦争や気候変動など、人類が直面する脅威を象徴的に示すもので、午前0時が人類滅亡の瞬間を意味する。1947年、冷戦時代に核兵器の脅威を警告するために設立され、その後、気候変動や新技術の悪用といった要因も評価対象に加えられた。
2025年の終末時計が89秒に設定された背景には、以下の要因があると説明されている
- 核兵器のリスク増大 ロシアによるウクライナ侵攻や中東情勢の不安定化により、核兵器使用のリスクが高まっている。また、中国、ロシア、アメリカが核兵器の近代化や拡充に巨額を投じており、誤算や事故による核戦争の可能性が指摘されている。
- 気候変動の進行 2024年は観測史上最も暑い年となり、温室効果ガス排出量の増加や海面温度上昇が記録された。これらは地球規模で深刻な影響があることが明らかになった。
- 新技術の悪用 AIの軍事利用や生物学的技術の悪用も懸念されている。特にAIが核兵器システムに組み込まれることで、危機管理がさらに複雑化している。
終末時計は1947年に「真夜中7分前」から始まった。その後、1953年には米ソ両国による水爆実験を受けて「2分前」に進んだ。冷戦終結後の1991年には「17分前」と最も遠ざかったが、その後は再び短縮傾向にあり、2020年以降は「100秒前」を維持してきた。そして2024年には「90秒前」、今年はさらに進み「89秒前」となった。
終末時計は科学者たちによる「警告」の象徴だ。今年の発表では、「世界中の指導者たちへの警告」として、この危機的状況を強調している。特に核兵器や気候変動、新技術への対応が不十分であることを指摘している。
科学者たちが指摘したこと以外にも、世界は確実に期待したようには進んでいない。冷戦終結後のグーロバリズムは、世界は良い方向に進んでいるという楽観的な気分にさせてくれた。しかし、それは、この10年ほどで失われ、ますます暗い未来が見えてきた。世界の右傾化、保護主義、権威主義国家の増加、人権問題への反感といった社会的・政治的動向が深刻な影響が、明るかった気分を吹き飛ばした。
まず、欧米を中心に極右政党やポピュリスト政治家が台頭している。例えば、オランダでは極右政党が総選挙で勝利し、イスラム教徒移民への排斥的政策を掲げる動きが強まっている。イタリアでもムソリーニ時代以来最も右派的な政権が誕生し、フランスでは極右政党「国民連合」が選挙で躍進した。日本でも、同様の主張をする政党が誕生して得票数を伸ばし始めている。
このような右傾化は経済停滞や移民問題への不満を背景にしており、多くの場合、排外主義や国家主義を強調することで支持を集めている。これにより、多文化共生や国際協調といった理念が後退し、人権や民主主義からの乖離が深まっているように思える。
そして、保護主義もまた、終末時計を進める要因の一つと考えられる。アメリカではトランプ大統領が再選し、「アメリカ第一主義」を掲げて貿易戦争や、国際協定からの離脱を推進し始めた。これにより、国際社会での協力体制が揺らぎ、気候変動対策や核軍縮交渉などの重要課題への取り組みが遅れることは確実だ。未来は考えず、今の時点の利得しか見ていないように思える。
特に気候変動問題では、多くの国がパリ協定の目標達成に向けた具体的な行動を取れていない状況で、アメリカは離脱を宣言した。2024年には観測史上最も暑い年となり、温室効果ガス排出量も増加している。カルフォルニアの干ばつに伴う火災も、環境問題の一つの例だ。こうした問題に対する各国の対応不足は、地球規模での危機をさらに深刻化させてゆくだろう。
また、一部の国家では権威主義的な指導者が選挙で選ばれ、その後も強権的な政策を続けている。こうした指導者はしばしばメディアや司法機関を抑圧し、自らの権力基盤を強化する一方で、人権侵害や民主主義の後退を引き起こしている。特にLGBTQ+コミュニティへの反感や差別的政策は深刻となってきた。一部地域では同性婚や性自認に関する権利が否定される動きが強まっており、人権擁護団体は批判している。アメリカでは、この動きがさらに進んで、社会の分断と対立が深まると思われる。
終末時計は単なる象徴ではなく、人類が直面する現実的な危機への警鐘だ。科学者たちは、今年の報告の中で「世界中の指導者たちへの警告」として、この危機的状況を真摯に受け止めるべきだと訴えている。
しかしながら、右傾化や保護主義、権威主義国家の増加などによる国際協調体制の崩壊は、この警告に耳を傾ける余地を与えない。このような状況を見ても、終末時計が真夜中に近づいたということが実感できる。