スマートグラス市場の盛り上がり

by Shogo

スマートグラスと言うと、古くて新しいと思っていた。かつてのGoogle Glassのイメージがあって、スマートグラスは挑戦はされたことはあったが、「まだ早い」と「誰が使うの?」と思っていた。ところが、状況が明らかに変わってきた。MetaのRay-Ban Metaグラスが予想外の成功を収め、GoogleやSamsung、そしてAppleまでもが参入を計画している。売れて初めて競争が始まる。そして今、新しい市場が本格的に立ちあがろうとしているようだ。個人的には眼鏡を使っているので、Ray-Ban Metaが出た時に買いたかった。日本では買えないのだけど。

現行機種の勢力図

Ray-Ban Meta AIグラスが、現時点での市場のベンチマークだ。2023年末の発売から2025年2月までに200万台を売り上げ、2026年末までに年産1,000万本へ増産する計画だという。12メガピクセルのソニー製センサー、最大3分間の動画撮影、オープンイヤー型のオーディオ機能を備え、見た目は普通のRay-Banだ。価格帯は約300ドルから400ドル台で、ここが普及の心理的天井を決めている。スマートグラスが「実験」から「事業」へ格上げされた瞬間と見ていい。

遅れて登場したRokid AI Glasses Styleは真正面から似せてきた競合だ。同じソニーの12メガピクセルセンサーを採用しつつ、録画上限を最大10分へ伸ばしてきた。スマートグラスの動画は「3分で切れるから使わなくなる」ことが多いので、体験の連続性に手を入れたわけだ。

Ray-Ban Meta AIグラスとRokid AI Glasses Styleにはディスプレイが無いが、ディスプレイを載せる流れもある。Even Realities G2はカメラもスピーカーも載せず、表示とマイク中心で勝負する。「撮っている不安」を最初から取り除く設計は、普及の最大障壁の常時撮影に対する一つの回答になり得る。XREALのようなARグラスは、目の前に大画面を投影するタイプで、主にエンターテインメントや作業用途を想定している。

新しいプラットフォーム戦争

スマートグラスが新しいプラットフォームになるかもしれない。次の時代のスマホだ。GoogleはAndroid XRを「Gemini時代のAndroid」として位置づけ、メッセージ、予定、ナビ、撮影、リアルタイム翻訳までをデモしている。眼鏡が「アプリを開く」ではなく「視界の文脈で助ける」装置に変わる、という宣言だ。アメリカのD2Cブランドとして有名なWarby ParkerやGentle Monsterといった眼鏡ブランドとの協業を明言しており、2026年にAIスマートグラス投入という報道が出ている。MetaがRay-Banで学んだファッション流通の強さを、正面から取りに行く動きに見える。

Samsungも2026年内に、次世代ARグラスを投入することを明言しており、Android XR陣営としてラインを厚くする可能性が高い。

また、Appleも動き始めているようだ。1月29日、Appleはイスラエルのスタートアップ、Q.aiを約20億ドルで買収した。これは2014年のBeats買収に次ぐ、同社史上2番目の規模の買収だ。Q.aiが開発していたのは、顔の微細な筋肉の動きから発話内容を読み取る技術で、ささやき声や無声発話でもAIアシスタントと対話できるようになる。公共の場や静かな環境での利用を想定したもので、ウェアラブルAIが、周囲に気づかれずに使える道具へと進化する可能性を秘めている。今回の買収は、Appleがウェアラブル市場、とりわけスマートグラスに本腰を入れていることの証拠と言えるだろう。

用途は翻訳・ナビ・記憶補助に

スマートグラスのアプリケーションは、おそらく翻訳・ナビ・記憶補助の3点に収れんしていくだろう。理由は単純で、スマホが最も苦手な瞬間、つまり手が塞がっている、視線を外せない、今この場の会話が進んでいるような状況に最適だからだ。

翻訳はわかりやすい。Android XRのデモが象徴的で、字幕が現実世界に浮かぶだけで、旅行の摩擦が一段落ちる。ナビも強い。耳で曲がれと言われるだけで、自転車でも歩行でも体が軽くなる。

そして一番伸びしろが大きいのが記憶補助だろう。ローソンでの実証実験では、店員がAIグラスを装着して調理マニュアルをAIに取り込み、音声で手順を確認しながら作業を行った。物流倉庫でのピッキング作業でも、AIが最短ルートを算出し視界内に矢印で指示を出すことで、効率が大幅に向上すると言う。スマートグラスは思い出を撮る道具から、思い出を取りこぼさない道具へ役割が移るのだろう。

AIとの連携が真価を決める

Metaは2026年モデルでスーパーセンシング機能を検討しており、AIが数時間にわたってバックグラウンドで動作し続け、鍵の置き忘れや買い物リストを音声でリマインドしてくれるという。顔認証機能も視野に入っており、すれ違った人の名前を思い出させてくれるかもしれない。

AppleのQ.ai買収は、AI連携の次の段階を示唆している。無声発話技術により、ユーザーは声を出さずとも表情や顔の筋肉の微細な動きだけでSiriと対話できるようになる。視線や表情から感情状態を読み取る技術も含まれており、AIアシスタントがより文脈に沿った応答をする未来が見えてくる。

普及はどうなる

市場規模は2024年時点で約60億ドル、2037年までに180億ドルに達すると予測されている。別の調査では2030年までに130億ドルとの見方もあり、数字にはばらつきがあるものの、成長トレンド自体は共通している。

普及の条件は4つだ。まず、見た目。かけた瞬間にガジェット顔にならないこと。以前のGoogel Glassはこの典型だった。そして、価格。300ドルから400ドル帯が日常ガジェットの限界。日本円でも5とか6万円あたりまで。さらに、プライバシー。カメラ無しの設計や、外部から見て分かる明確なサイン、そしてポリシーの透明性が競争力になるだろう。最後に、エコシステム。ハード単体ではなく、スマホや他のデバイスとの連携が鍵だろう。ここでは、AndroidもAppleも負けてはいない。

Appleによる20億ドル規模の買収は、同社がこの領域を戦略的投資として捉えていることを物語っている。とはいえ、プライバシーの問題は避けて通れない。常時カメラが作動するデバイスを公共の場で使うことへの抵抗感は根強い。このあたりの社会的受容がどうなるかだ。

2026年から2027年にかけては、撮れるイヤホンとしてのスマートグラスが伸びるだろう。次に2027年から2028年、Android XR系の参入で、ナビ+字幕+予定が標準化し、眼鏡がアプリの器になり始める。ここで勝敗を決めるのは、カメラの画質ではなく、日常での気まずさを消す設計と、ログの扱いの信頼性になる。

要するに、スマートグラスの普及は技術の勝利ではなく、社会の合意形成の有無だ。便利さだけが先に立つと反発が来る。反発を見越して、見かけも含めて受け入れやすいスマートグラスを作る企業が、最後に市場を取るのかもしれない。それは、どこか、どんな形か?

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