トランプ大統領の再選以来、電気自動車(EV)のポジションは変化し始めている。補助金の見直しなどで、急速なEVへの移行は進まないと思われる。だが、国際エネルギー機関(IEA)の最新レポートによると、2025年には世界で販売される自動車の25%以上、つまり4台に1台以上が電気自動車になる見通しだ。
記録的な販売台数と成長率
IEAのレポート「Global EV Outlook 2025」によると、世界のEV販売台数は1,700万台を超え、全自動車販売の20%以上を占めた。これは2020年の世界全体のEV販売台数を上回る350万台の増加だ。
2025年の成長予測では、世界のEV販売は2,000万台を突破し、全自動車販売の25%以上を占めると見込まれている。すでに2025年第1四半期の販売データは前年同期比で35%増を記録しており、主要市場すべてで第1四半期の販売記録を更新している。トランプファクターがあっても、確実に市場は動いているようだ。
特にこの移行が顕著なのは中国だ。中国は世界のEV市場を圧倒的にリードし、2024年にはEVが中国の自動車販売の約半数を占め、1,100万台以上が販売された。Statista Consumer Insightsの調査によると、中国の消費者はEVの購入に対して非常に積極的で、69%がEV購入を希望していることが報告されている。
日本では、EV市場の成長は緩やかだ。だが、購入意向は着実に高まっているようだ。J.D. パワーの2023年日本EV検討意向調査によると、今後1年以内に新車購入を検討する消費者の50%が「EVを検討する」と回答している。ただし、EVのみを検討する人はわずか4%であり、残りの46%はEV以外の車も同時に検討している。この調査では、都会居住者と高所得層のEV検討率が高く、全国8地域のEV検討者を見ると、関東が56%、東京23区では66%と際立っている。世帯年収が高いほどEV検討率も上昇し、年収600万円以上では検討率が非検討率を超えている。日本も遅ればせながらも、EV志向になりつつあるようだ。
アメリカでは、2024年のEV販売は前年比約10%増加し、販売台数全体の10%以上がEVとなっている。2025年については、第1四半期の10%成長が維持されると予想され、消費者が税額控除のトランプ政権による廃止を見越して既存の優遇措置を活用することで、2025年のEV販売は総販売台数の11%に達すると予測されている。駆け込み需要のようだ。
しかし長期的には、アメリカのEV市場の成長は他の主要市場に比べて控えめで、現在の政策方針が続くと2030年までに販売シェアは約20%に達すると予想されている。これは、やはりアメリカの風向きが変わったということだろう。
購入意向に関しては、Statista Consumer Insightsの調査によれば、アメリカの成人のわずか19%が新車購入時にEVを選択肢として考えていると回答しており、これは調査対象の多くの国に比べて低い水準だ。この背景には、トランプファクター以外に、EV価格の高さや、国土の広大さに関連する走行距離の長さなどがあると考えられる。
EV購入意向に影響を与える要因
IEAのレポートによると、EV購入意向に最も大きな影響を与える要因の一つが価格だ。世界平均としてバッテリーEVの価格は2024年に下落したものの、従来車との購入価格差は多くの市場で依然として存在する。ドイツでは平均的なEVの価格は従来車よりも20%高く、アメリカでは30%高い状態が続いており、これが成長に影響している。対照的に、中国では2024年に販売された電気自動車の3分の2が、購入インセンティブを考慮しなくても、従来車よりも低い価格で販売された。BYDなどの低価格EVの普及が進んでいることが背景にあるのだろう。
新興市場では、中国製EVは通常、平均的なEVよりも安価で、中国メーカーの競争力は高い。タイでは電気自動車の平均価格が従来車と同等になり、中国製EVはさらに安価のようだ。このような環境では、EVの普及が進むだろう。
充電インフラの整備状況
充電インフラの整備状況もEV購入意向に大きく影響する。IEAのレポートによると、公共充電ステーションは過去2年間で倍増し、増加するEV販売に対応している。
中国と欧州連合は、EV台数の増加に合わせて充電器の設置ペースを維持しているが、アメリカと英国では、公共充電器の整備がEVの普及に追いついておらず、2024年には公共充電ポイント1か所あたりの電気自動車の数が増加した。この状況では、心配でEVを持つことは難しいだろう。
J.D. パワーの日本調査では、EV検討者の約70%が充電場所を「自宅以外」と想定しており、若年層ほどこの傾向が強いことがわかっている。「ガソリンスタンド(15%)」が自宅以外のメイン充電場所として最も支持されているが、現行の充電速度では長時間充電が避けられず、期待と現実にはギャップがある。これが、価格よりも大きな問題かもしれない。
走行距離と地理的要因
日本のJ.D. パワー調査では、EV検討者の月間平均走行距離は880km、非検討者は973kmであり、満充電航続距離への懸念がEV検討の障壁となっているようだ。関東住民の平均走行距離は811kmで全国最少のため、EVの航続距離に対する不安が比較的少ない一方、走行距離が長い地方ではEV検討率が低くなっている。
アメリカのような広大な国では、長距離移動の頻度が高いため、この要素が特に重要となり、消費者のEV購入意向に影響する。これが、アメリカの成長率の見込みが低いことの要因だろう。
IEAのレポートは、貿易・産業政策の不確実性や経済見通しのリスク、石油価格の低下などがEVの普及に影響する可能性を指摘している。だが、中国では、政府の継続的な支援と競争力のあるEV価格により、EV販売は逆風にも耐えられる見通しだそうだ。欧州では、従来車との価格差が大きい市場環境にあるものの、長期的な政策目標とパンデミック時の政策対応から得た教訓により、EV販売の維持は可能とされている。
日本では都市部の高所得層を中心にEV検討が広がりつつあるが、充電インフラの現状や走行距離への懸念は近日中には大きくは変わらなそうだ。このようなことを考えると、中国などの市場に比べると日本でのEV化率が進むとは思えない。