Netflixの広告事業

by Shogo

Netflixが2025年に掲げる経営目標は、広告収入の倍増だそうだ。広告を毛嫌いしてきたNetflixも大きく変わったものだ。Netflixは、2022年11月に広告付きプランを導入して以来、Netflixは従来の「広告なし」のプレミアムサービスから、広告主との関係構築に舵を切っている。

2025年第2四半期決算によると、Netflix広告付きプランの月間アクティブユーザー数は全世界で9,400万人に達し、前年同期の7,000万人から約34%増加した。この成長は、同社が目指す広告収入倍増の基盤となっている。特に新規加入者の50%以上が広告付きプランを選択しているようで、価格に敏感な消費者層を獲得しているのだろう。ただ、この数字には既存ユーザーが解約して、新たに広告付きプランで契約することも含まれているだろう。

Netflixの新たな広告戦略は、自社開発の広告技術プラットフォーム「Netflix Ads Suite」の展開にあるという。2022年の広告導入時にはMicrosoftの技術に依存していたが、完全に独自の広告配信システムを構築し、2025年6月までに広告対応12カ国すべてで稼働を完了させているという。流石である。

この自社プラットフォームにより、Netflixはプログラマティック広告の購入を大幅に簡素化し、The Trade Desk、Google Display & Video 360、Microsoft、そしてYahoo DSPといった主要な広告プラットフォームとの連携を実現している。これにより広告主は、従来よりも柔軟で効率的な広告配信が可能になった。

生成AI活用による広告革新

最も画期的な展開は、2026年から導入予定の生成AI活用広告である。この技術により、広告主のクリエイティブとNetflixの番組世界を瞬時に融合させ、視聴者にとってより自然で関連性の高い広告体験を提供するらしい。これは従来の画一的な広告配信から、パーソナライズされた動的広告への大きな進化を意味する。これは、早く見てみたい広告だ。

Netflix広告の特徴的な要素として、インタラクティブ広告の充実が挙げられる。具体的には以下のような形式が展開されている。

  • QRコード挿入型広告  既存のクリエイティブにQRコードを挿入し、視聴者をランディングページへ誘導
  • ミッドロール広告  番組視聴中の自然な区切りで表示される、スキップ不可能な広告
  • ポーズ広告  視聴者が番組を一時停止した5秒後に表示される、ブランドセーフティに配慮した広告

これらの広告フォーマットは、視聴完了率90%以上という高い効果を達成しており、従来のテレビCMを大きく上回る成果を示しているという。

高度なターゲティング機能の実現  ファーストパーティデータの活用

Netflixの強みは、17カテゴリ・100種類以上の興味関心データに基づく精緻なターゲティング機能にある。同社は視聴者のファーストパーティデータを活用し、LiveRampとの連携やExperian、Acxiomなどの第三者データプロバイダーとの協力により、高度なオーディエンス分析を可能にした。

注視率という新しい指標

特筆すべきは、Netflixが重視する「注視率」という指標である。日本での調査によると、Netflix視聴者の注視率は53.1%に達し、TVer(46.0%)やAmazon Prime Video(48.6%)を大きく上回っている。これは、視聴者が番組と同じくらい広告に注目していることを示しており、広告主にとって極めて価値の高い広告機会を提供している。

注視率とは、広告やコンテンツに対して視聴者が実際に視線を向け、認識・処理した割合を示す指標だ。カメラや赤外線センサーを用いてユーザーの視線の動きをリアルタイムで追跡し、どの位置をどれだけの時間見ているかを計測する。日本では、電通ジャパン・インターナショナルブランズやビデオリサーチなどが注視率を算出している。

スポーツ・エンターテインメント配信の拡大

Netflixが大きく変わったのは、もう一つある。それはライブコンテンツにも舵を切ったことである。以前は、スポーツなどのライブコンテンツは放送権が高騰したために、ライブコンテンツとは距離を取ってきた。

しかし、NFLのクリスマスデーゲーム(3年契約、年間1.5億ドル)、WWE Raw(10年契約、年間5億ドル)、FIFA女子ワールドカップ(2027年・2031年大会)といった大型スポーツイベントの独占配信権を獲得している。これは、広告主にとって高い関心を集める広告機会を提供している。

広告業界の競争構造変化

Netflixの広告事業参入は、年間1兆円規模の広告プラットフォームの誕生を意味し、X(旧Twitter)やSnapchatを上回る規模に成長する可能性がある。これは従来のテレビ広告業界に深刻な影響を与え、地上波放送や衛星テレビの広告収入の流出を加速させている。

CTVマーケットでの主導権争い

CTV(Connected TV)市場において、NetflixはYouTubeやAmazon Prime Videoと激しい競争を展開している。特にCPM(視聴者1,000人へのリーチコスト)では、Netflixは価格を引き下げざるを得ない状況にあり、広告主にとってはコストパフォーマンスの向上をもたらしている。

さらに、インタラクティブ動画の技術は、Netflix以外の企業にも影響を与えるだろう。双方向コミュニケーションを重視する新しい広告フォーマットは、エンゲージメント率を従来の3倍以上に向上させる効果がありと推定されている。

日本市場においても、Netflixの広告事業はメディア・広告業界に大きなインパクトをもたらすだろう。日本の加入者数は4年間で倍増し、1,000万人を突破した。日本発コンテンツの世界展開と連動した広告戦略は、日本企業のグローバルマーケティングに新たな可能性をもたらす。

Netflixの広告事業は、他の動画配信プラットフォームもこの潮流に追従することが予想され、CTV広告市場全体の技術革新と市場拡大が加速するだろう。マーケティング業界にとって

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