ChatGPT、8億人達成と戦略

by Shogo

OpenAIの生成AI「ChatGPT」が、週次アクティブユーザー数8億人を突破した。CEOのサム・アルトマンが「Dev Day」で発表したこの数字は、異例のスピード成長だ。わずか2年前の公開から、GoogleやMetaの主要プロダクトを凌ぐ勢いで拡大している。

この急成長を支えた要因は何だろうか。これだけ競合が溢れているAIブームの中で、ChatGPTの優秀さだけでは説明できない。最初に話題になったAIであり、生成AI技術の代名詞になったことは、まず考えられる。だが、それだけではない、OpenAIのしたたかなマーケティング戦略が裏にありそうだ。

例えば、2024年末にChatGPTでジブリ風画像が生成できるようになったとき、SNSは瞬く間に、ChatGPT生成作品投稿で溢れた。実際には「ジブリ公式」とは無関係だが、あの世界観を再現できるという体験が、数千万件単位でシェアされ、ChatGPTの認知を拡大した。OpenAIはこれを明確に抑止せず、むしろ創造の自由というポジティブな文脈で許容する対応だった。

この「ゆるさ」が、UGC(ユーザー生成コンテンツ)による自然拡散を最大化する鍵だったようだ。広告業界的に言えば、これは「キャンペーンではなく、空気をつくる」手法だ。

ユーザーは、ChatGPTによる画像生成を通じて、自ら作品を生み出した感覚を得る。そこに新鮮な体験が生まれ、ChatGPTを身近に感じさせるだろう。広告で利用を呼びかけるより、強いキャンペーンとなる。さらに、それをSNSでシェアする動機となる。この心理的ドライバーが、OpenAIのマーケティング戦略だろう。

続いて今年9月に登場したのが、映像生成モデル「Sora 2」だ。OpenAIはこのリリースを単なる技術発表にとどめず、ユーザーが、現実と遜色のない世界を再現できる力を得たという物語として語った。

しかも、初期段階では著作権保護を緩やかに設定し、他社作品や著名キャラクターを生成可能な状態で公開。これが一時的な混乱とともに、爆発的な注目を生んだ。著作物の利用をオプトアウトに設定するのは、誰でも何が起こるか予想はできた。

YouTubeやTikTokには、ポケモンなどのAI映像が溢れ、Soraでつくった映像か?というハッシュタグがトレンド入りした。ビジネス界の批判と一般ユーザーの熱狂が同時に渦巻くこの状況こそ、OpenAIのマーケティング設計だったろう。

いわば倫理のギリギリを演出し、批判的な議論を話題化する戦略だったとしか思えない。

これは、著作権リスクは極めて高い。だから、一時的にバズらせた後で、OpenAIは設定を変更し、権利者のオプトアウトを転換した。しかし、この一連のプロセスでSora 2は、多くの人が議論するAIとして、その高精細な映像を認知することで、ブランド価値を圧倒的に高めた。

ジブリ風画像の生成も、Sora 2の映像も、すべてに共通するのは、バズらせて、ユーザーが試してみたくなる誘導の設計だ。この戦略は、SNS時代の拡散のメカニズムを徹底的に理解した上で構築されている。

OpenAIの成長は、単なるテクノロジー企業の技術だけの成功ではなく、SNS時代の文化の拡張を理解した上での成功だ。広告的な文脈で言えば、メディアを買うのではなく、語られる場を設計する発想だ。そのように考えると、ChatGPT-4oの際のスカーレット・ヨハンソンの声の無断使用も確信犯だったのかもしれない。

このような拡散のメカニズムは今後、マーケティング・コミュニケーションのお手本になるかもしれない。つまり、消費者が試して参加したくなるような物語をどう創造できるかということだ。これが、SNS時代のマーケティングの核心になる。

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