言い換えの魔術

by Shogo

ヴィーガンレザーという言葉を始めて知った。調べると、動物の皮を使わずに、石油由来の合成素材やリンゴ、パイナップル、キノコなどの植物由来原料で作られた革風の素材の総称だそうだ。

植物由来もあるが、石油由来もあるのがポイントだ。響きは美しく、身体にも地球にも優しいイメージがある。だが、その正体は石油から作られたプラスチック、つまり合成皮革も含まれるということだ。「合皮」と呼ばれ、本革の安価な代用品と見なされていた素材が、名前を書き換えただけで、地球にやさしい選択肢へ変身している。

これは、言葉の言い換えによって対象の本質を覆い隠す、姑息な手法と言える。だが、中身が同じであっても、貼られたラベル一つで、イメージも、価格の妥当性も受け入れてしまう弱さを私たちは持っている。これを悪用したマーケティング手法だ。

美辞麗句の煙幕

企業が環境への配慮を装う「グリーンウォッシング」は、この言い換えの技術が最も洗練された形で現れる。H&Mの「コンシャス(意識的な)」コレクションは、消費者に「正しい選択」をしているという免罪符を与える。しかしながら、大量生産・大量廃棄というビジネスモデルの根幹は変わらない。コカ・コーラがラベルを緑色に変えたコカ・コーラ ライフも、私たちの脳は「緑=健康・自然」という短略的な連想をする。しかし、ペットボトルの廃棄問題も解決しない。それが理由ではないだろうが、コカ・コーラ ライフはすでに販売が終了している。

石油会社が「クリーンエネルギー」という言葉を広告で強調するとき、その背後にある巨大な化石燃料への依存は、美しい風景写真と抽象的なスローガンの影に隠蔽される。こうした手法は、広告では一般的に用いられる。理想的な外見、体型のモデルが、無意識のうちに理想の姿を特定の型に押し込む、言葉を使わない言い換えの一種と言える。

政治の言葉の魔術

この本質を隠す言い換えは、マーケティングの枠を越え、政治の世界ではさらに狡猾に、そして巧妙に機能する。歴史を振り返れば、言葉は常に権力の都合に合わせて形を変えてきた。例えば、「敗戦」を「終戦」と言い換えたように。

「増税」という言葉を、政治家は極端に嫌う。代わりに「社会保障の充実のための負担の分かち合い」や「財政健全化」といったフレーズを使う。負担が増えるという痛みを伴う事実は、将来への投資という前向きな響きの中に隠される。軍事行動を「平和維持活動」や「特別軍事作戦」と呼び変えることで、暴力の生々しさを脱臭し、正当性を捏造する試みも、古今東西を問わず繰り返されてきた。

政治における言い換えの本質は、論点のすり替えにある。ある政策がもたらす「痛み」を、別の「大義」で覆い隠す。そうすることで、有権者の批判的思考を停止させ、感情的な同意を引き出す。これは、ヴィーガンレザーという言葉がプラスチックの環境負荷から目を逸らせるのと、構造的には全く同じだ。

何を読み取るか

なぜ、私たちはこれほどまでに言葉の言い換えに惑わされるのだろうか。それは、人間が情報を処理する際、詳細な事実を検証するよりも、与えられた「ラベル」から直感的に判断を下す方が、圧倒的に脳のエネルギーを節約できるからだ。脳は常に省力化を好む。

しかし、言葉が本質から切り離され、イメージ操作の道具に成り下がるとき、社会の透明性は失われていく。曖昧な表現で消費者を惑わしたとして指摘された「ゼロエミッション」の広告のように、数値に基づかない心地よい響きだけの言葉は、時に嘘よりも巧妙に私たちを欺く。

今、必要とされるのは、言葉の「衣」を剥ぎ取り、その下にある実体を見る力だ。企業が、あるいは政治が、なぜその言葉を選んだのか。その裏で、語られなかった言葉は何なのか。

ヴィーガンレザーという言葉を聞いて、それが単なるプラスチックの別名であることを知った上で、それでもその利便性や価格を選ぶのであれば、それは合理的な消費と言える。しかし、言葉の響きだけに踊らされているのであれば、知らぬ間に誰かの描いたシナリオの上で踊らされているに過ぎない。言葉の魔法を解く鍵は、常に本質への問いかけの中に隠されている。

このように、マーケティングも政治も、言葉の言い換えは、真実隠蔽装置として機能する。だが、その裏にある本質を読み取る力こそが、私たち一人ひとりに求められるメディアリテラシーだ。

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