AIは誰の仕事を奪うのか

by Shogo

Metaは、FacebookとInstagramのコンテンツモデレーションを、外部の人間からAIシステムへ大幅に移行すると発表した 。

同時に地球の反対側では、ケニアの裁判所の判断が注目を集めている。2024年9月、ナイロビの控訴裁判所が、重要な判決を下した。Metaのコンテンツモデレーターとして働いていた185人の元従業員が、不当解雇・劣悪な労働環境・メンタルヘルスへの深刻な被害を訴えた裁判で、裁判所はMetaの管轄外申立てを、主張に根拠がなく、棄却すると明確に退けた 。ケニアのモデレーターは、1日8時間、暴力・性的虐待・テロのコンテンツを目視確認し続け、受け取る月給は日本円にして約6万円ほどだという。その人たちの仕事が、アルゴリズムに置き換えられようとしている。

このナイロビの訴訟はまだ審理中だが この事例は単なる労働争議にとどまらない。AIによる仕事の代替という問題を可視化した出来事だ。

Metaの論理と背景

Metaが今回の方針転換を急いだ理由は、経営的な合理性だけではないそうだ。AIシステムを導入した結果、人間チームが見落としていた詐欺アカウントを1日5,000件検出し、有名人なりすましアカウントの検出数も増加、性的な勧誘コンテンツの摘発量は人間の約2倍に達したという 。この効率に驚くほかない。定型化された作業で、人間はAIの敵では無くなっている。だが、コンテンツモデレーターのAI化は効率だけではない。Metaは従業員全体の約20%削減も計画しており、AI開発の膨大なコスト増大への対応という、人件費削減による合理化という経営判断も背景にあるようだ。

ただ、コンテンツ・リスク審査の90%近くをAIが担う計画に対し、あるMetaの従業員は「私たちが提供していたのは、リスクについての人間的な視点だ。それが失われようとしている」と証言していると報じられている 。このコメントは、効率化の陰に隠れたリスクを正確に言い当てているかもしれない。現時点でも、やはり人間の判断が必要なことは存在するという意見には個人的にも同意できる。

「奪う」のか「変える」のか

AIは本当に仕事を奪うのだろうか。数字だけを見れば、脅威は現実だ。世界経済フォーラムの推計では、2026年までにAIが約8,500万の雇用を置き換える可能性があるとされ 、2030年までに世界で9,200万の職が失われるという試算もある 。ゴールドマン・サックスは3億人分のフルタイム雇用に相当する仕事がAIに代替されうると予測している 。

だが同時に、別の数字も存在する。2030年までにAIが新たに生み出す雇用は1億7,000万に上り、差し引きで7,800万の「純増」になるという予測もある 。AIエンジニア、プロンプトエンジニア、AIプロダクトマネージャーなどのポジションはここ数年で需要が100%以上増加している分野だ 。AIが奪うのは、タスクであり、仕事の全体ではない、という見方も成立する。

問題の核心は、誰が割を食うか

ただ、この議論の最も厄介な部分は、仕事の総量ではなく、仕事の分配にあると思われる。ケニアで月6万円で働いていたモデレーターたちが、AIエンジニアに転職できるわけではない。AIが生み出す新しい仕事の多くは、高度なスキルと資本、そして地理的な優位性を前提としている。低所得国でAIの影響にさらされる仕事の割合は26%にとどまるが 、それはAIが、より豊かな国の仕事を作り、より貧しい国の仕事を奪うという構造を生み出す可能性を示唆している。これは、遠い国の話ではない。全く同じ構造で、日本でも起こるのは確実だ。学生に前から言っていたことだが、AIを使いこなす人が、AIを使えない人の仕事を奪ってゆく。

Metaの発表とケニアの裁判は、同じ問いの表と裏だ。テクノロジーが何を解決し、何を切り捨てるのか。その問いは、進行中でまだ誰も答えを持っていないし、予測も難しい。

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