ロシアによるウクライナ侵略の戦場では、戦車やミサイル以外にもインターネットベースの様々な技術が使われている。
まずは、イーロン・マスクが、衛星インターネットサービスのStarlinkをウクライナに提供し、インフラが次々と破壊されている中で、ウクライナ政府はロシアとの戦闘のためにインターネットを利用できている。ネットワークは、仕事でも戦争でも欠かせないだろう。
それから、テレビで見たが、ウクライナにある民生用のドローンが集められて、これを使ってロシア軍の情報を収集をしているようだ。もちろん民生用のドローンには攻撃能力はないがロシア軍の動きを監視するためには十分であろう。アメリカ政府も監視衛星や軍事偵察機による映像や情報を提供しているものと思われるが、近隣の状況を知ると言うためであれば民生用のドローンが有効だ。
今朝新聞で読んだのは、顔認識ソフトウェアがウクライナ政府によって使われているようだ。侵略が始まった当初、ウクライナ政府が公開した映像について、ロシアはウクライナ政府が捏造したフェイクニュースで、登場するロシア人は、ウクライナ政府に雇われた役者だと主張した。
これを見た監視ソフトウェアのクリアビューAIのCEOは、顔認識ソフトウェアが使えるのではと考えて、ウクライナ政府にコンタクトを取ったそうだ。ニューヨークに本社を置くクリアビューAIは、無料でアカウントを作成し、クリアビューが持つ200億人分のデータベースの利用を許可した。このデータベースは、公開されているウェブサイトから収集された画像から成り立ち、これを参照することにより、そのサイトの情報からその人物の特定ができる。
ウクライナ政府はこのクリアビューAIのアプリを使って、死んだ兵士や捕虜などを特定したり、ウクライナ国内にいる旅行者の身元を確認していると言う。
死亡した兵士については、クリアビューAIによって、顔の画像から、特定したSNSサイトの情報から、身元を確認する。そして、ロシアにいる家族に死亡通知している。これはロシア側が主張している軍事行動で死亡した兵士はいないと言う主張を否定して、現実に死亡した兵士を特定することによってロシアの嘘を暴くための試みだ。ロシアに対する情報戦争としては非常に有効である
一方でこのような顔認識ソフトウェアを使う事は監視社会を生み出す可能性があり批判も多い。クリアビューAIの技術は、アメリカ国内では地方しか司法機関にしか提供されていないと言う。しかし、誰でも買えるソフトウェアとして、PimEyesやFindCloneの顔認識サービスがあるようだ。画像検索技術を使って、ウェブ上で一致する顔を探すことができるようだ。これにより、顔の画像から、関連する情報を得ることができる。
実際に最近ウクライナから略奪した物品を送る人物の映像から、その人物をFindCloneを使って、ロシア兵の誰と特定することができたと言う。これにより、ロシア兵が実際にウクライナ国内で略奪行為も起こっていることが証明できたわけだ。
テレビで見る刑事ドラマなどでは、監視映像から犯人を特定する場面がよく出てくる。ただ実際にはそのような精度で特定することは難しいので、テレビだからできていると思っていた。だが、今回のウクライナの戦争で使われることによって実用に耐えるようなものだと言うことがわかった。そう考えると一部の監視ソフトウェアの禁止論者と同じように、強権的な政府の手によって使われると、監視社会が成立する危険があることも理解できる。あるいは映画の「マイノリティーリポート」のように、個人を認識して街角で広告を配信するような使い方も可能になると言うことだ。
そのように考えると、自分の写真をインターネット上に公開する事はあまりやりたくないものだ。セルフィーなどもってのほかである。とは言え、様々な場所で撮られたものが既に公開されており、全てを消してもどこかに残っているだろうから意味がない。つまりもう手遅れと言うことだ。