YouTubeは、NFLのSunday Ticket放送パッケージの交渉を続けていて、近いうちに契約締結が発表されるそうだ。放送権料は年間25億ドルで、これはDirecTVが現在払っている金額よりも10億ドルも高い。Sunday Ticketは、NFLの日曜日の試合を居住者の地元以外で行われる全ての試合を見ることができるパッケージだ。地元の試合については、地上波テレビ局との契約はすでに締結されている。
DirecTVは150万から200万件のSunday Ticketの契約者がいるようだ。しかし、契約者の減少が続き、Sunday Ticketの契約を維持するをするのが難しいところに加えて、YouTubeが支払う25億ドルに対抗することはできなかったようだ。
Sunday Ticketについては、一時はAppleとの契約が近いと報道されていた。Appleのスーパー・ボウルのハーフタイムショーのスポンサー契約もその一環かと思われたが、そうではなかった。”The Morning Show” や “Killers of the Flower Moon” などの映画やテレビ番組でジェニファー・アニストンなどの大物スターを獲得する契約を優先させたということなどだろうか。
動画共有サイトのYouTubeは、Googleのビジネスの中でも巨大な広告収入を得ている。しかし、パンデミックの際の急速な成長の反動か、広告収入が減少している。2021年の第4四半期の8.6億ドルをピークに、2022年は各四半期とも7億ドル程度に低迷している。このためか、すでに開始していた課金ビジネスに力を入れ始めた。YouTube TVは2017年2月に、YouTube Primetime Channelは2022年11月にサービスを開始した。どちらもアメリカのみでのサービスだ。
YouTube TVは、ケーブルテレビのチャンネルをまとめて見られるサービスで月額64.99ドル。今年6月の時点で本契約とトライアルで500万以上のアカウントがあると発表されている。
YouTube Primetime Channelは、配信サービスの映像をYouTube上から視聴できるサービス。対応しているのは、Paramount+、SHOWTIME、AMC+などの30以上だ。配信サービスコンテンツのワンストップサービスのようなビジネスだ。
YouTubeがSunday Ticketを獲得すれば、Sunday Ticketは、このそれぞれのサービスの付加サービスとして追加料金を支払って契約できるようになる。
日本でもアメリカでも家庭では多くの人がテレビを使ってYouTubeを視聴している。このためにYouTubeは、企業やスポーツ団体にとっても重要なメディアとなっている。すでにNFLも公式チャンネルを持っており、登録者は1,000万人を超えている。またNFLの全チームも公式チャンネルを持っている。このためにNFLでYouTubeで見ることについては、両者ともにメリットが大きい。NFLはDirecTVが払っていた15億ドルよりも10億ドル高い25億ドルの放送権料を毎年得る事になる。問題は、ポテンシャルはあっても、YouTubeが25億ドルを支払えるビジネスを生み出せるかどうか。多分GoogleもYouTubeも長期的な投資と考えて、当面の赤字は織り込み済みなのだろう。
Sunday TicketがYouTubeに移ることで、アメリカの放送事業の中心であったケーブルテレビが配信に移りつつあることが明確になった。今までは、ほとんどの家庭がスポーツ中継を中心にして、様々な娯楽チャネルを含んだパッケージをケーブルテレビから購入していた。それがコードカッターと言われるような時代になり、ケーブルを外して、多くの家庭が配信サービスに切り替えつつある。この流れは止まらない。
Amazonは木曜日の夜のフットボールのThursday Night Footballの独占配信権を年間10億ドルで契約している。Appleも、MLBとMLSの両方の配信する契約を結んだ。これらのスポーツ中継を見たければ、ケーブルではなく配信サービスと契約するしかない。
Sunday Ticketの契約がYouTubeと言うことになると、今後放送関係者の関心は、NBAの契約がどこが取るのかと言うことになる。配信サービスになるのか、既存のテレビ局が維持するのか。経済合理性を無視して契約を行う巨大IT企業の配信サービスが、全てでは無いにせよ、契約するのは間違い無いであろう。何と言っても人気スポーツは放送事業の中心になるコンテンツだからだ。既存の放送局では難しい巨額の入札を行うだろう。