Amazonが、AI検索スタートアップPerplexityを提訴している。争点は、Perplexityの「Comet」というAIブラウザエージェントが、ユーザーの代わりにAmazonで商品を購入する機能だった。利用規約違反と詐欺行為に当たるとAmazonは主張し、一方のPerplexity側は、横暴ないじめ行為だと反発している。この対立は、単なる法的紛争ではなく、AIエージェント時代の商取引における主導権争いの幕開けを意味している。一般論としては、Amazonの動きは神経質すぎるように見えるが、AIエージェントによるショッピングの時代が到来したことを象徴している。
Amazonは、第三者のAIエージェントが商品ページをクロールするのをブロックし、AIボットのデータ収集を遮断した。同時に自社では「Rufus」や「Buy for Me」といったエージェント型購買体験を育てている。しかしこの一連の動きは、単なる技術競争ではない。Amazonが本当に失いたくないのは、売上そのものよりも、顧客との直接の関係だ。
「記憶に残るのは誰か」という戦い
もしユーザーが「ChatGPT、1万円以内で評判のいいノイズキャンセリングイヤホン買って」と話しかけ、購入まで完了してしまったらどうなるか。ユーザーの記憶に残るのはAmazonではなく、「そのAI」になってしまう。広告も、比較も、意思決定も、すべてAIの中で完結し、Amazonは巨大な倉庫兼決済インフラへと後退する。読んだ記事中では、Forresterのアナリストは、「ChatGPT上のエージェントを使えば、小売業者は自社サイトでの取引を失い、他人のハイウェイで通行料を払う羽目になる」と警告している。
Amazonにとって、それは悪夢だろう。2024年にリリースされた会話型AIアシスタント「Rufus」は、自然言語での商品検索や比較を可能にし、2025年のホリデーシーズン前には「Help Me Decide」という新機能を追加した。これはユーザーの閲覧履歴と好みをAIが分析し、「なぜこの商品があなたに適しているのか」を説明しながらワンタップで推薦する仕組みだ。実験的な「Buy for Me」機能では、他社サイトの商品をAmazonアプリ内から購入できるようにする開発も進んでいる。ここには矛盾もある。つまり、他社には、Amazonのエージェント機能を受け入れることを期待している。
「選ぶ」から「任せる」への転換
これまでは、比較サイトを見て、レビューを読んで、悩んで、納得して買う。そのプロセス自体が、消費の一部だった。
しかし、エージェントはその面倒くささを丸ごと引き受ける。条件を渡せば、候補を絞り、価格を監視し、最適なタイミングで購入する。ユーザーと違い、疲れないし、迷わない。感情もない。これは、検索の代替ではなく、意思決定の外注だ。
Googleが2025年に発表したAIショッピング機能がその象徴といえる。「AIモード」では、ユーザーが「かわいいトラベルバッグが欲しい」と話しかけるだけで、パーソナライズされた商品画像とリストを表示する。さらに「Agentic Checkout」は、ユーザーが設定した価格条件を満たせば、Google Payを使ってAIが自動で購入を代行する仕組みだ。店舗在庫の確認すら、AIエージェントが電話で行う「Let Google Call」という機能も導入される。
YouTubeで動画を探すとき、私たちはすでに似た体験をしている。かつては関連動画を辿り、自分で面白さを発掘していた。いまはどうか。レコメンドに身を任せ、気づけば数時間が溶けている。ショッピングでも、同じことが起き始めているのかもしれない。
他にも起きている変化
Amazonだけの話ではない。Googleは検索にAI要約を組み込み、MetaはWhatsAppやInstagram上でのAIアシスタント活用を急いでいる。中国では、すでにAIが商品を選び、ライブコマースで人間が背中を押す構図が見え始めている。
ウォルマートは、AIエージェントを使った在庫最適化で、Eコマース売上を21%向上させた。過去の販売データ、天候パターン、地域イベントを分析し、需要予測の精度を高めた結果である。同社はさらに、ユーザーの購買傾向を学習し、買い物リストの管理や商品の自動補充を行うエージェント機能も開発中だ。小売業界全体で、42%の企業がすでにAIエージェントを導入しており、53%が検討中という調査結果もある。
共通しているのは、どこで買うかよりも、誰に任せるかが重要になっている点だ。ブランド、ECサイト、マーケットプレイス。これまで主役だった存在が、舞台装置に変わりつつある。
広告とブランドの意味が揺らぐ
AIエージェントが商品を選び、購入するとき、従来の広告モデルは機能しない。Googleの親会社Alphabetの広告売上高は四半期で713億ドルを超えるが、AIエージェントが広告を見なくなれば、この収益構造は崩れる可能性がある。
企業はこれまで、広告やSEOで、検索エンジンやマーケットプレイスで、見つけてもらうために最適化してきた。だが今後は、ショッピングエージェントにどう評価されるかが重要になる。商品データの構造化、在庫情報のリアルタイム更新、レビューや説明文のAI可読性といった要素が、エージェントによる推薦を左右するからだ。売り手はもはや、消費者だけでなく、AIという新たな意思決定者に向けても語りかけねばならない。
消費の主導権は誰の手に
AIエージェントが購買行動を仲介する時代、プラットフォーマーと消費者の関係は決定的に変わる。顧客が自分の好みを学習したエージェントに任せれば、もはやAmazonのレコメンドエンジンやRufusの出番はないかもしれない。Perplexityは、ブログ投稿で、「ユーザーは自分の選んだエージェントで買い物をする権利がある」という主張をしている。
しかし、エージェントがユーザーの代理として購買を行う時代には、新たなリスクも生まれる。価格操作、バイアスのかかった推薦、プライバシーの侵害などだ。こうした懸念に対する規範や法整備はまだ整っていない。AIエージェントが、買い物の主導権を握る未来は、利便性と引き換えに、私たちは何を失うのか。
