世界最大の広告会社グループWPP傘下のメディアバイイング会社のGroupMが、2023年の広告の成長率予測の発表をした。今回の中間予測では、世界の広告業界の成長率を、アメリカの大統領選挙に向けた政治的な広告を除いて、5.9%と見込んでいる。
アメリカでは、2024年11月の大統領選挙に向けて、今年から予備選挙が始まるために立候補者の政治広告が急増する。これが広告費の前年比に大きな影響与えるために、GroupMはアメリカの政治広告を除いた数字で発表している。それは、別の言い方をすると、アメリカのメディアや広告関連企業にとって大きなインパクトのあるサイズということでもある。オリンピックと同年になるために、アメリカのメディア・広告は4年に一度、お祭り騒ぎになるということだ。
今回の5.9%の発表は、2022年12月に発表された5.9%の成長予測を変更していない。その理由は、2023年の世界の名目成長率は、インフレ率の上昇によって相殺されるために、プラス・マイナスで大きな影響がないと考えられているためだそうだ。
GroupMの発表で目立つのは、2023年の広告市場の大きな変化として、人工知能(AI)分野の成長を上げていることだ。年末までの全広告収入の少なくとも半分には、何らかの形でAIが関係するとしている。これまでの広告技術をさらに進化させ、AI最適化ツールやプラットフォーム横断的分析技術が広告主や広告会社で活用されていくことを想定している。
また、広告主としてもAI関連企業の増加を見込んでいる。今のようにAIが急速に普及しているために、AIを活用したスタートアップ企業も増加しており、今後2年から5年の間にAI関連企業の広告が急増すると予測している。
広告費として、最も大きいセグメントは、デジタル広告で、2023年には8.4%成長し、2028年には広告全体の74.4%に達すると見込んでいる。これについては誰しも予測することだが、2028年で74.4%とはかなり大きな数字だ。2022年の日本の広告費では、43.5%だ。これが、日本でも74.4%になるかどうかは疑問だ。
AI以外に2023年に成長が予想されるのは、デジタルアウトフォーホーム、リテイルメディアとコネクテッドTVの3つのセグメントだ。
デジタルアウトホームは、今までの屋外広告は、デジタルサイネージに変わり、広告が効率化され、効果的になるために、今後も広告の需要は堅実とみられている。
リテイルメディアは急成長している広告メディアで、様々な店舗に広告が設置され、重要な広告メディアとなった。2023年には9.9%成長して1257億ドルに達しており、2028年末にはコネクテッドTVを含むすべてのテレビ広告の合計を超えると予測されている。
インターネットに接続したテレビを表す「コネクテッドTV」は多くのユーザがストリーミングサービスを利用したことで、急速に普及し、2023年には全世界で普及率は13.2%に達するとGroupMは見込んでいる。この数字は、世界の数字のために低くなっているが、多くの国で、販売されるのは今やほとんどコネクテッドTVだ。日本での普及率は、ビデオリサーチの調査では、2022年では約57%と過半数以上まで増加した。
当然、コネクテッドTVの広告は増加が予想され、GroupM は、20 23年から毎年10%程度の増加が続くと見込んでいる。このために通常テレビである「リニアTV」の広告費はさらに減少が予想されている。
国別では、GroupMは、アメリカの広告の成長率は5.1%にとどまりIMFが予測しているアメリカのGDPの成長率6.1%には届かないと見込んでいる。他の市場では、中国の広告収入は7.9%増加すると、高い成長率を予測している。中国もパンデミックが終了して経済的な回復が期待されているようだ。
他の広告会社の見込みでは、電通は2023年の広告の世界の成長率を、2022年12月に発表した3.8%から引き下げて、中間予測で3.3%成長の7279億ドルと発表している。GroupMの見込みより、かなり悲観的だ。
広告市場は、日本も含めてパンデミックの影響から徐々に回復を見せている。GroupMや電通の発表でデジタル広告の成長が続き、2028年には、広告の7、8割がデジタル広告になることを見込んでいるのは共通している。今回のGroupMの発表で特徴的なのは、特にAIが広告に及ぼす影響である。AI技術として広告業界のビジネスの仕組みを変えていくこととともに、AI分野のスタートアップ企業が増加し、その広告費が増えていくことを見込んだ点だ。