生成AIスタートアップのPerplexity AIは、盗用疑惑が相次いだことを受け、新たな戦略としてメディア企業向けの収益分配プログラム「Perplexity Publishers Program」を発表した。
背景と経緯
2024年6月、Perplexity AIは有料コンテンツを無断使用しているとして非難を受けた。ForbesやWiredなどの大手メディアからは、Perplexity AIの「Pages」ツールが適切な著作権表示なしに有料記事を再現しているとの指摘があった。これは、詳細な調査に基づいたもので確実な証拠が提示されている。この状況を受け、Perplexity AIは、メディア企業との関係を改善し、収益の一部を共有するための取り組みとしての収益分配プログラムを発表した事になる。
「Perplexity Publishers Program」の概要
「パブリッシャーズプログラム」と呼ばれる新しい収益分配モデルは、AI生成コンテンツが特定の出版社の記事を引用するたびに、その出版社に広告収入の一部を分配する仕組みだ。TIME、Der Spiegel、Fortune、Entrepreneur、The Texas Tribune、WordPress.comなどの有力メディア企業がこのプログラムに参加しているようだ。
Perplexity AIのビジネスモデルの特徴
Perplexity AIの取り組みは、他のAI企業との違いがいくつもある。AI企業は、コンテンツをAIトレーニングなどのために必要としているが、適切な関係を模索する状況だろう。しかし、Perplexity AIは踏み込んで新しい関係を構築したことになる。
その主な特徴は以下の通り。
- 出版社への直接的な収益シェア: Perplexity AIは、AI生成レスポンスで出版社の記事が引用された場合、広告収入の一定割合を出版社に直接分配。この割合は二桁台とのことだ。AI企業他社は広告収入を直接シェアするのではなく、アーカイブへのアクセス権を支払い、コンテンツ利用を行うことが多いようだ。
- 早期からの出版社との連携: Perplexity AIは1月から出版社との連携を開始し、第1四半期には収益シェアの概念が固まっていたそうだ。他社と比べて比較的早い段階から出版社を巻き込んでいる。
- APIクレジットと分析ツールの提供: 出版社はPerplexity AIからAPIクレジットとScalePost.aiによる分析ツールを提供される。これにより、自社コンテンツの利用状況を詳しく把握できるようになる。
- 出版社の広告販売チームとの協力: Perplexity AIは出版社の広告販売チームと協力し、自社の広告枠を包括的に収益化する計画だ。これは、他社にはあまり見られない取り組みと言える。まるで、広告代理店のような取り組みだ。
このように、Perplexity AIは出版社との直接的なパートナーシップを通じて、他社とは異なるアプローチで広告収入の配分に取り組んでいる。ただし、実際にどの程度の収益が出版社に分配されるのかは、今後だ。
メディア企業への影響
Perplexity AIの「パブリッシャーズプログラム」メディア企業にとってプラスとマイナスの両面の影響があると考えられる。
プラスの影響
- 新たな収益源の確保: Perplexity AIからの広告収入シェアにより、メディア企業は新たな収入を得ることができる。特にデジタル広告市場が飽和状態にある中、AIを通じた収益化は魅力的な選択肢となり得る。
- コンテンツの価値向上: Perplexity AIによるコンテンツの引用は、記事の信頼性や権威を高める効果がある。これによりメディアブランドの価値向上につながる可能性がある。
- ユーザー流入の増加: Perplexity AIから自社メディアへのリンクにより、ユーザー流入の増加が期待できる。これが、新たな読者層の獲得につながるかもしれない。うまくいけばだが。
マイナスの影響
- コンテンツの二次利用への懸念: メディア企業が制作したオリジナルコンテンツがAIにより再利用されることへの抵抗感がある。知的財産権の侵害につながるのではないかという疑念が消えないだろう。
- 広告収入の減少リスク: ユーザーがPerplexity AIの要約で満足し、オリジナル記事にアクセスしなくなる可能性がある。その場合、メディア企業本来の広告収入が減少するリスクがある。
- ジャーナリズムの質の低下: AIによる情報の要約や編集が進むと、調査報道などの手間のかかるジャーナリズムが成り立たなくなるのではないかという懸念もあるだろう。
このようにPerplexity AIの取り組みは、メディア企業にとって新たなチャンスである一方で、リスクも孕んでいる。この取り組みは、AIとメディアの健全な関係性を模索していく中の一つの選択肢だろう。個々のメディア企業は自社の強みを生かしつつ、AIをどう活用していくかを見極める必要がある。他のAI企業も、方法は別にしてもメディア企業と折り合いをつける必要がある。
Perplexity AIは急速に成長しており、2023年には5億件以上の検索クエリを処理しているようだ。ジェフ・ベゾス氏やソフトバンクの出資により、資金も豊富だ。日本でも、ソフトバンクユーザーは、有料版を無料で使用できるようになった。もちろん、孫さんの支払いだ。
Perplexity AIのAI検索ツールは、OpenAIやMetaのLLaMAなどの言語モデルを活用しており、即座に情報源を引用した回答を提供することを目指している。AI生成と検索の中間のようなサービスだ。ここは有望な市場で、Googleは、ここを狙うだろうし、OpenAIもSearchGPTで参入した。
実際に、Perplexity AIの共同創業者であるAravind Srinivas氏は、同社のサービスを「WikipediaとChatGPTの結婚のようなもの」と表現している。Perplexity AIはサブスクリプションモデルと広告モデルの両方を採用し、ユーザーベースの拡大に伴う収益化を目指している。
ただし、現時点ではまだ収益を上げておらず、OpenAIも含めて、GoogleやMicrosoftなどの大手企業との競争も激しくなっている。ジャーナリズムやコンテンツ制作の分野とAIの軋轢と変革の中で、Perplexity AIがどのように成長していくかが注目される。