AIの技術進化は、急速に進んでいる。一般に使われるようになったチャットボット型だけではなく、以前より私たちの知らない場所で、様々なAI技術は使われている。特に、この数年でさまざまな業界での業務効率化や顧客体験の向上に大きな変革をもたらしているのだろう。これは、目に見えない。一番分かりやすい例は、カスタマーサービスにおけるAIの実務適用であろう。
その最新の事例として、T-MobileとOpenAIの提携が挙げられる。2024年9月、アメリカの大手通信事業者T-Mobileは、AI技術を活用したカスタマーサービスプラットフォーム「IntentCX」の開発に向けて、OpenAIと提携したと発表した。この提携は、T-Mobileが培ってきた顧客対応のノウハウと、OpenAIの最先端のAI技術を融合させるものであり、顧客対応でのAI導入の事例となる。
IntentCXは、従来のチャットボットを超えた高度なプラットフォームとなるのだそうだ。読んだ記事の中で、T-MobileのCEOは「IntentCXは単なるチャットボットではなく、顧客がどのように対応されたいかという数百万のヒントをもとに、カスタマーケアチームを強化し、顧客体験を最適化するためのものです」と説明している。顧客とのやり取りから得られる膨大なデータを活用し、個々のニーズに合わせたパーソナライズされたサービスを提供することがIntentCXの目的だそうだ。
AIを活用したカスタマイズされたサービスIntentCXは、T-Mobileのカスタマーサービスチームによるトレーニングを通じて、顧客の意図を理解し、適切な解決策を提示し、顧客の許可を得て代理で行動することが可能だそうだ。つまり、相談されたら、その問題を解決までやってくれるということのようだ。普通なら、相談されたら、やり方を教えて、あとは顧客が手を動かすことになるが、IntentCXは完了までをできるようだ。、つまり、知見はカスタマーセンターが持っていて、それの活用方法をAI技術が受け持つ。
AI技術は、顧客サービスにおいて、特に大量のルーチン対応が必要な場合に大きな効果を発揮するだろう。ある調査によれば、AIチャットボットは顧客サービスの効率を大幅に向上させている。例えば、グローバルな決済ネットワークであるKlarnaでは、生成AIを活用したチャットボットが同社の顧客サービスの3分の2の対応を行っており、問題解決に要する時間が従来の5分の1以下に短縮されたという。さらに、このKlarnaのシステムは700人分のフルタイム従業員の労働力に相当する処理能力を持っている。つまり、このシステムのために700人が職を失うということだ。
また、Discover Financial ServicesはGoogle Cloudと連携し、生成AIツールをコールセンターのエージェント向けに提供している。このツールは、インテリジェントな文書要約機能やリアルタイムの検索支援を提供し、通話時間の短縮や検索時間を最大70%削減するなど、エージェントの業務効率を大幅に向上させているという。
OpenAIを始めとしたAI開発会社は、顧客サービスのようなB2Bに取り組んで収益を上げないと、膨大な開発コストを回収できないだろう。それは、B2Cでは利益が上げられないかもしれないからだ。
日本のChatGPT利用率は高くない。2023年10月の調査では、42.8%が「利用したことがある」と回答している。ただし、これは無料版を含んでの数字だ。世界のデータでは、やはり2023年10月にOpenAI は利用者は2億人と発表している。別のデータによると、有料版の利用者は10%程度ということなので、有料版の利用者は2000万人に過ぎない。月額費用20ドルだから、月の売上は2億ドルということになる。これでは、B2Cだけでは利益どころか開発費は出ない。
OpenAIの評価額は1500億ドルということだが、これはOpenAIのビジネス規模と釣り合っていない。もっとも、これは他のハイテク株と同じで期待価格が十分以上も織り込まれている。最近、ゴール・マンサックスがAI関連の投資は1兆ドルに達するという見込みを発表していたが、それだけの投資に見合うB2Cビジネスはあり得ない。
だからAI技術をB2B分野に適応して、売上をあげる方向に向かうのだろう。そこで、まずカスタマーサービスの分野での適用となる。企業は、AIを活用してより高度な顧客対応を実現し、コスト削減と業務効率化を図ることができる。人員が削減できるのであれば、コストも十分に見合う。そして、IntentCXのような高度なプラットフォームは一旦完成すれば、他業界にも展開される可能性があり、今後、さまざまな企業がAI技術を導入していくことが予想される。
AI技術は、まず、カスタマーサービスにいて急速に普及するだろう。T-MobileとOpenAIの提携により、AIを活用した次世代のカスタマーサービスプラットフォーム「IntentCX」が誕生すれば、B2BでのAI技術の実務適用が進む。これがうまく稼働すれば、AIカスタマーサービスを多くの企業が採用するだろう。