ADKの買収

by Shogo

ADKホールディングスが、韓国ゲーム大手KRAFTONに約750億円で売却された。日本の広告業界での久しぶりの買収だ。何と言っても、現在は業界4位まで順位は下がってはいるが、業界の有名会社だ。ADKは、今では広告会社の株式上場はあたりまえだが、誰も上場していない1980年代から上場もしていた有名な会社だ。

この記事を読んでみると、2つの視点があると思った。

まずは、広告業界の長期的成長の不透明さだ。ベインキャピタルは2017年に1,500億円でADKを買収したものの、8年間の経営改革を経ても根本的な収益性改善に至らなかった。ADKの業績は低迷を続けてきた。それは、20世紀型のマス広告を前提とした業態の広告代理業が限界に達していることの現れのように見える。

また、ファンドが推進したテクノロジー対応も期待した成果を上げられてはいない。デジタル広告分野は、利幅が薄い性質がある。しかも、デジタル広告の分野は新規参入も多く異常な競争市場である。ADKは、広告業の大手とは言えデジタル広告参入で、ぜんぜん儲からない体質になっているようだ。この構造は、他の会社でも同様だ。つまり、20世紀のマス広告が儲かりすぎたということもあるだろう。

さらに、最近は経営陣の入れ替えと給与削減により社員の士気と文化が崩壊し始め、優秀な人から転職する人もかなり多かったと記事にはあった。広告代理店の最重要資産である人材の流出では、今後の成長は難しいだろう。

このような状況で、ベインキャピタルの最終的な判断は、広告代理店業そのものの将来性に対する根本的な疑念だろう。広告代理店業に価値を見出す投資家がいない、上場も難しい状況の中で、750億円という半値での売却を選択したとも思える。

これを、KRAFTONの視点から見ると、ADKの別の価値が見えてくる。KRAFTONの公式声明では広告業の話は一言も出ていない。CEOは、ADKについて「日本のコンテンツ産業に深い理解を有し、アニメーションの企画・制作、広告、マーケティング、メディア運営など多岐にわたる分野で卓越した専門知識と実行力を備えたパートナー」と評価している。広告業務への無関心であって、ADKのコンテンツ制作能力を見ているようだ。

KRAFTONが注目したのは、ADKが保有する「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」「プリキュア」などの強力なIP群と、300本以上のアニメ制作委員会への関与実績だろう。これらの資産は、単なる広告代理業務を超えた、コンテンツビジネスの基盤として機能することができる。

KRAFTONにとってADKは、急成長するグローバルアニメ市場において日本市場への足がかりとしての戦略的価値を考えているようだ。アニメにNetflixやディズニーも積極投資を進める中で、日本のアニメ制作ノウハウと人脈ネットワークの獲得は、KRAFTONの競争優位性の確立に直結する。

だから、この買収は、不透明の広告代理業からのファンドの脱出と、アニメIP資産の価値を見出したKRAFTONの戦略的投資ということなのだろう。

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