何十年も英語を勉強してきて読んだり書いたりするのはそれなりできるようになったが、ネイティブに近い発音する事はどうしてもできない。帰国子女の友人たちを見ると、きれいなネイティブのような発音しているのでうらやましく思うことが度々あった。
幼少期に英語の発音を身に付けないとネイティブのようには、しゃべれないのは当たり前の話だが、日本語なまりのある英語の発音しかできないのは、残念なことだ。
しかしながら、AIによる発音修正というか、なまりの中和と言うか緩和と言うか、そのような技術が開発されているようだ。AIは誰かのものまねをすることが簡単なくらいだから、考えてみれば発音を変換することなどたやすいことなのだろう。
世界最大のコールセンター運営企業であるテレパフォーマンスSEが、インド人スタッフの英語の発音のなまりをリアルタイムで「中和」するAIシステムを導入したというニュースに少し驚いた。
この技術は、テレパフォーマンスSEが「なまり翻訳」と呼ぶもので、インドやフィリピンのなまりを対象に開発され、今後はラテンアメリカなど他の地域にも拡大される予定だそうだ。
このシステムの目的は、当然のことながら顧客サービスの質を向上させることにある。テレパフォーマンスのCEOは、「インド人エージェントが電話に出ると、聞き取りにくいことがある」と述べ、この技術が「インド人話者のなまりを遅延なく中立化」することで、顧客満足度を高め、平均処理時間を短縮できると説明している。
しかし、この技術は、単にビジネス効率を追求する以上の意味を持つかもしれない。それは、グローバル化が進む中で、言語と文化がどのように扱われるかという、より深い問題につながるからだ。
AIによる発音変換の背景と技術
テレパフォーマンスが導入した「なまり翻訳」技術は、パロアルトに拠点を置くスタートアップ企業、「Sanas」によって開発されたそうだ。同社は、アクセントに基づく差別を減らすことを目標に、この技術を開発したという。このシステムは、背景雑音の除去機能も備えており、通話環境を改善することで、顧客と顧客対応エージェント双方にとってより快適なコミュニケーションを可能にする。
テレパフォーマンスは、この技術に1300万ドルを投資し、同社の顧客に対して独占的な再販権を取得した。
近年、AIチャットボットの台頭は、従来の人的コールセンターのビジネスモデルに対する懸念を引き起こしている。スウェーデンのフィンテック企業、クラーナ銀行ABがOpenAIのAIアシスタントを導入し、700人分の業務を代替したという事例は、その象徴的な出来事だった。
テレパフォーマンスは、こうした懸念に対し、AIを従業員の代替ではなく、従業員の対話能力向上に活用することで対応しようとしている。
しかし、Sanasの技術は、生成AIと人間の境界線を曖昧にするものであり、特にフィリピンのような、質の高い英語話者を多数育成することでコールセンター市場をリードしてきた国々にとっては、脅威となる可能性も秘めている。
発音の「均質化」がもたらす社会的影響
AIによる発音変換は、ビジネス上の効率化だけでなく、社会的な影響も考慮する必要があるだろう。なまりは、個人のアイデンティティや文化的背景を反映するものであり、それを「中立化」することは、多様性の喪失につながる可能性があるとも言える。
Sanasは、この技術を「なまりに基づく差別を減らす」ために開発したと主張しているが、実際には、特定のアクセントを「劣ったもの」と見なし、排除しようとする意図があるのではないかという批判も出ているそうだ。
また、この技術が普及することで、英語の「標準」が固定化され、多様な英語話者が排除されるという懸念が報道では指摘されていた。つまり、グローバルなコミュニケーションにおいて、相互理解を促進するためには、多様ななまりを受け入れ、尊重する姿勢が不可欠だということだ。
確かに、日本人として生まれた私は、アメリカ生まれの人と違う英語の発音するのは当たり前だ。それは日本人としての文化的背景や言語能力を持つ1人の人格としての意味を持っているからだ。AIによる発音中和が当たり前になる未来においてはそのような文化的背景を消し去ってしまう。
良い例えが思いつかないが、斜視であったサルトルがその矯正手術を自分自身を失うと言って拒否したことを思い出す。確かに報道が指摘しているように、誰もが中立的なあまりのない英語しゃべるようになると、なまりが劣ったものとして固定され、それ以外のものは受け入れられなくなると言う未来があるのかもしれない。この事例からもわかるようにAIと人間が共存する未来について、より深く考える必要がある。
テレパフォーマンスの「なまり中和」技術は、AIがもたらす可能性と課題を象徴するものだ。この技術は、顧客サービスの効率化に貢献する一方で、文化的アイデンティティや多様性の尊重といった、より深い問題提起をしている。