生成AIの急速な普及により、本物の画像とAI生成画像の区別がますます難しくなっている。フェイクニュースに対応するためには、デジタルコンテンツの信頼性確保は喫緊の課題だ。
この課題に対応するため、Adobeは画期的なソリューションを提供開始した。クリエイターの権利保護とデジタルコンテンツの透明性向上を目指す「Adobe Content Authenticity」アプリだ。
Adobe Content Authenticityアプリとは
Adobeは2025年4月24日、クリエイターが作品を保護し認証表示を受けられるようにするWebアプリ「Adobe Content Authenticity」のパブリックベータ版を提供開始した。このアプリは、デジタルコンテンツに「成分表示ラベル」のような「コンテンツ認証」を付与できるツールだ。2024年10月に発表され、Chrome拡張機能などが提供されていたが、今回のパブリックベータ版提供により、多くのユーザーがこの機能を利用できるようになる。
「Adobe Content Authenticity」は、デジタルコンテンツの作成者情報やその背景情報を、メタデータとして安全に埋め込む技術だ。誤情報やAI生成されたディープフェイクへの懸念が高まる中、誰がどのように、作成したコンテンツなのかを明確に表示することを目的としている。アドビが主導するContent Authenticity Initiativeには4,500社を超えるメンバーが参加しており、デジタルコンテンツの信頼性向上に向けた業界全体の取り組みとなっている。
コンテンツ認証の仕組みと機能
コンテンツ認証は、デジタルコンテンツに付与できる安全なメタデータであり、次のような情報を含めることができる。
- 発行者または署名者 アセットを認証または署名するためにデジタル署名を発行したエンティティや会社に関する情報
- 発行日 Content Credentialsがアセットに適用された日付
- クレジットと使用状況 名前、ソーシャルメディアアカウント、その他のID情報など、アセットの作成者に関する情報
- プロセス アセットに対して行われた編集または変更の記録
- デバイスの詳細 アセットの作成や編集に使用されたアプリやデバイスに関する情報
- 使用されたAIツール アセット編集や作成に生成AIを使用した場合、使用されたモデルの名前
Adobe Content Authenticityアプリでは、最大50枚のJPG、PNGファイルにコンテンツ認証を一括で付与できる機能を提供している。さらに、近い将来、動画や音声についても対応予定ということだ。
クリエイター保護のための革新的機能
Adobe Content Authenticityの最も注目すべき機能の一つが、AIトレーニング拒否オプションだろう。このオプションにより、クリエイターは自身の作品が無断でAIモデルのトレーニングに使用されることを防ぐことができる。
これは特に、スモールビジネスのオーナーや個人クリエイターにとって重要な機能だ。独自に開発したデザインや製品イメージが無断で利用されることを防ぎ、クリエイター自身が作品の使用条件を細かく設定することで、独自のスタイルやアイデンティティを保護することが可能になる。
さらに、Adobe Content Authenticityで付与されたコンテンツ認証は、コンテンツのライフサイクル全体を通じて維持される。デジタル指紋、見えない電子透かし、暗号署名付きメタデータを組み合わせることで、スクリーンショットが撮影されたり、ウェブ上で再投稿されたりしても、クリエイターの情報が保持される仕組みとなっている。
コンテンツクレデンシャルの活用方法
Adobe Content Authenticityアプリの操作は、使いやすさを重視して設計されているそうだ。このツールを使うことで、画像、音声、動画ファイルに対して、クリエイターの名前、ウェブサイト、ソーシャルメディアアカウントなどの情報を簡単に追加することができるようだ。
また、コンテンツ認証を確認する方法も提供されている。Adobe Experience Managerでは、アセットビュー内でコンテンツ認証を直接確認できる。また、Google Chrome用のContent Authenticity拡張機能を使用して、SNSやウェブサイトに投稿されたコンテンツに含まれるコンテンツ認証を復元して表示することも可能だという。ブラウザで簡単に確認できれば、フェイクニュースのリスクを避けることができる。
このようなアプリがない場合の危険性
デジタル偽情報の拡散リスク
Content Authenticityのようなツールがない世界では、デジタルコンテンツの真正性を確認する手段が限られている。インターネット上では、膨大な量の画像や動画などのデジタルコンテンツがやり取りされているが、その全てが正確なものではないし、これからもっとそうなるだろう。意図的に編集あるいは改ざんされたニュース画像や映像が、あたかも正しい情報かのように公開・拡散されると、世論をミスリードしたり、それを発端に国際問題に発展したりする可能性を生じるなど、社会的にも大きな影響を与えるリスクがある。
クリエイターの権利侵害問題
コンテンツの認証システムがなければ、クリエイターは自身の作品が不正に使用されるリスクに直面する。特に生成AIの普及により、クリエイターの作品が無断でAIモデルのトレーニングに使用される問題が深刻化しており、訴訟も頻発している。
企業やクリエイターが開発した独自のデザインや製品イメージが無断で利用されると、その企業やクリエイターの競争力やブランド価値が損なわれる可能性がある。クリエイターは自分の作品がどこでどのように使用されているのかを追跡することが困難になり、権利侵害に対して適切に対応することができなくなってしまう。
著作権侵害と法的リスク
生成AIツールを適切な理解なく利用すると、著作権侵害のリスクが生じる可能性がある。AIによって生成された画像が他者の著作権を侵害していた場合、炎上などによるレピュテーションリスクや権利侵害による損害賠償請求・差止請求に伴うサービス停止などを招く恐れがあるだろう。
Content Authenticityのようなツールがなければ、どの画像がオリジナルで、どの画像がAI生成なのか、または編集されたものなのかを判断することが難しくなる。これにより、意図せずに著作権侵害を犯してしまうリスクが高まることも考えられる。
コンテンツの品質と信頼性の問題
生成AIが生み出す画像の質は目覚ましい進化を遂げているが、細部まで完璧に再現することはまだ難しいのが現状だ。六本指など現実にはありえないものが生成されることもあり、気づかずにそのまま使用すると、画像の信憑性を失うだけでなくブランド・企業のイメージまでも損なう。AIガチャと呼ばれるように、同じプロンプトを入力しても、生成される画像は毎回異なり、意図した通りに生成できないことが多い。このような品質の不安定さは、ブランドイメージの一貫性を保つ上で大きな障害となるかもしれない。
生成AIの急速な発展により、デジタルコンテンツの真正性と信頼性の確保はかつてないほど重要になっている。この状況で、Adobeの「Content Authenticity」アプリは、この課題に対する画期的なソリューションだ。コンテンツク認証を通じて、作品の来歴を明確に示し、クリエイターの権利を保護するこの技術は、デジタルコンテンツの信頼性向上に大きく貢献するだろう。
