DJIの事業戦略

by Shogo

DJIといえば、2017年にハッセルブラッドを買収したドローンの会社というイメージだ。そのDJIが電動アシスト自転車(E-BIKE)市場、特に電動マウンテンバイク(E-MTB)の分野に本格的に参入しているという記事を興味深く読んだ。

DJIは、そのデジタル技術で、デジタル化に遅れていたハッセルブラッドを最先端高級カメラメーカーに進化させた。また、ジンバルや飛行制御システムなど高性能なドローンと映像技術で、アクションカメラメーカーとしてGoProに代わって第一人者になっている。このところ、映像に興味を持っているので、今年はDJI Pocket 3を買って、そのジンバル技術に驚いたが、それよりも、小さな映像素子にも拘らず、その画像の高度さや美しさに、さらに驚いている。これを、日本のカメラメーカーが作れないのは残念なことだ。

しかし、そのDJIがE-BIKEでも評価されているようだ。2024年に発表された「Avinoxドライブシステム」は、E-BIKE業界に大きな衝撃を与え、BoschやSpecializedといった既存の大手企業にとっても脅威となっているらしい。

このAvinoxドライブシステムは、1000Wのモーターと最大120Nmのトルクを発生させる能力を持ちながら、小型、軽量、高効率を実現しているという。このシステムを搭載したDJI初のE-MTB「Amflow PL」シリーズは、高価格帯(Amflow PL Carbonが7,499、Proモデルが10,199)でありながら、その性能とデザインで専門家から高い評価を得ていると記事には書かれていた。

さらに、Avinoxドライブシステムは、DJI自社のE-BIKEだけでなく、すでに16以上の国際的なE-BIKEブランドに採用されているということで、DJIがE-BIKEの「心臓部」となるドライブシステムそのものを主要な事業として展開していることがわかる。これは、単に完成車を販売するだけでなく、E-BIKE業界全体のサプライヤーとしての地位も確立しようとしていることのようだ。

記事によれば、なぜE-BIKE市場に参入できたのかが分析されていた。それは、ドローン事業で培ってきた複数のコアコンピタンスが強く関連しているという。

  • 高度なモーター・バッテリー技術 ドローンは、限られた重量とスペースの中で強力な推進力と長時間飛行を実現するために、高効率かつ軽量なモーターとバッテリー技術が不可欠だ。Avinoxドライブシステムに見られる高出力・小型・軽量化は、まさにドローンで培ったモーターとバッテリー技術の応用と言える。E-BIKEの性能を左右する最も重要な要素の一つであり、DJIはこの点で大きな優位性を持っている。
  • 精密な制御・センサー技術  ドローンは、安定した飛行や高度な映像撮影を実現するために、非常に精密な制御システムと多様なセンサー(加速度センサー、ジャイロセンサーなど)を搭載している。E-BIKEにおいても、モーターのトルク制御、アシスト力の最適化、走行安定性の向上には、これらの精密な制御・センサー技術が応用可能だ。特に、路面状況に応じた適切なアシスト力や、ライダーのペダリングに合わせた滑らかなパワー供給は、これらの技術によって実現される。
  • 小型化・軽量化技術  ドローンは空を飛ぶ性質上、あらゆる部品の小型化・軽量化が求められる。Avinoxドライブシステムが「小型、軽量、高効率なパッケージ」と評されているのは、この小型化・軽量化技術がE-BIKEのドライブシステムにも適用されているからだ。
  • 研究開発力とイノベーションへの投資  DJIは常に最先端技術を追求し、市場に革新的な製品を投入してきた企業だ。Avinoxドライブシステムは、E-BIKE業界の「常識を覆す」とまで言われるほどの性能を持っており、これはDJIの継続的な研究開発への投資と、既存の枠にとらわれないイノベーションの表れだ。
  • グローバルなサプライチェーンと生産能力  ドローン市場で世界的なシェアを持つDJIは、部品調達から生産、流通まで、強固なグローバルサプライチェーンを構築している。これにより、高性能なAvinoxドライブシステムを安定的に供給し、複数のブランドに展開できる生産能力とネットワークを持っていると考えられる。

マーケティングの観点からは、単に完成車を販売するだけでなく、「Avinoxドライブシステム」を他のE-BIKEブランドに供給するビジネスモデルは、B2B(企業間取引)とB2C(消費者向け取引)の両方で収益を上げる多角的な戦略と言える。これにより、Avinoxドライブシステムが業界標準となる可能性も秘めており、市場における支配力をさらに強めることができる。Boschや日本のShimanoといった既存のドライブシステムメーカーへの強力な挑戦であり、将来的にはE-BIKE業界の勢力図を大きく塗り替える可能性があるだろう。

DJIは、ドローンから始まり、映像技術からE-BIKEまでコアコンピタンスの領域を拡大している成功例だ。DJIの動向は、テクノロジー業界全体からも注目される。このような事業戦略を、どうして日本企業は持っていないのだろうか。カメラ、家電や携帯電話から、その技術領域を拡大することができたかもしれないのに、何も新しいものが生まれてきていないことが残念だ。

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