Microsoftが、Edgeブラウザの「Copilot Mode」を発表している。このモードは、単なる検索アシスタントの枠を超え、ユーザーの意図を理解し、能動的にインターネット閲覧を支援するそうだ。従来のブラウザが、ユーザーがクリックして待つという受動的な操作を前提としていたのに対し、Copilot Modeは次に何をしたいか予測するという能動的なアシスタンスへと変わっているのだそうだ 。
これは、他社が志向しているAIブラウザと同じだ。このブラウザ役割の変化は、ブラウザはユーザーの代理人やパートナーのような存在となり、ウェブとの使い方が変わることを意味する。
Copilot Modeは現在、WindowsおよびMac版のEdgeで、Copilotがサポートされている全ての地域で期間限定の無料で利用可能だそうだ。Microsoftは、この機能が実験的な段階であり、今後もユーザーフィードバックに基づいて継続的に改善され、新機能が追加されると述べている 。
これは、かつてのブラウザ戦争でMicrosoftが、Microsoft Internet Explorer(IE)無料化を武器にNetscapeを打ち破ったのとは異なり、AIブラウザの競争では無料が一時的な試用期間や基本機能に限定され、高度なAI機能は有料サービスとして提供されるというビジネスモデルへの転換を示す。AIが提供するエージェント機能やタスク自動化といった付加価値に対して料金を支払うような収益戦略に変化している。
最初のブラウザ戦争
インターネットを使い始めたのは、1989年だった。アメリカの大学でGoferを触ったのが最初だった。その頃は、World Wide Webについての知識はまったくなかった。その後知ったのは、World Wide Webが開発されたのも、同じ1989年だった。その後、Gopherが登場した。だが、現在的な意味での、ブラウザに触ったのはMosicだった。
そして、Netscape Navigatorが登場してインターネットといえばNetscape Navigatorだった。当時は「ネスケ」と呼ばれていた。そこへ、IEが参入して、第一次ブラウザ戦争が繰り広げられた。この競争は、ブラウザの機能性、表示速度、そしてウェブ標準への対応能力を巡るものだったが、最終的にはMicrosoftがIEをWindowsオペレーティングシステムにバンドルし、無料で提供するという戦略によってIEが市場を席巻する結果となった 。
その後、このIEの独占状態は、Google Chromeの機能性や表示速度によって破られた。IEの開発停滞の理由は良く分からないが、IEのWindowsバンドルに端を発した司法省の独禁法違反の法廷闘争の影響があったのかもしれない。
インターネットビジネスの入口を巡る戦争はGoogleの勝利に終わった。そして、20年にもわたるGoogle Chromeの一強時代が今まで続いてきた。だが、AI時代を迎えて、「ブラウザ再発明」が行われている。
第二次ブラウザ戦争
Microsoft EdgeのCopilot Modeの前から、Google ChromeのGemini統合、Perplexity AIの「Comet」、OpenAIの「ChatGPT Agent」と新ブラウザ開発と、今や第二次ブラウザ戦争に突入したといってよいだろう。
Google ChromeのAI統合(Gemini)
Googleは、その主力ブラウザであるChromeにAIモデル「Gemini」を統合し、ブラウザ内でAIアシスタンスを提供している。この統合の主な目的は、ユーザーが記事の要約を素早く読めたり、複雑な概念を異なる方法で理解したり、情報を比較・推奨したりするといった、情報処理の効率化を図ることだ 。
この機能は、現在、米国在住のGoogle AI ProまたはUltraサブスクライバーに提供されており、最新バージョンのChromeと英語(米国)設定が必要だ 。Googleは、最も強力なGeminiモデルであるGemini 2.5 ProをAI Modeで提供することで、高度な推論、数学、コーディングの質問にも対応できるとしている 。さらに、「Deep Search」機能は、何百もの検索を実行し、異なる情報源から推論し、包括的で引用付きのレポートを数分で作成できる、より詳細な調査ツールとして、Pro/Ultraサブスクライバー向けに展開されている 。
Perplexity AIの「Comet」
Perplexity AIが2025年7月に発表した「Comet」は、すでに利用が開始されており、日本在住の筆者も利用可能になった。PerplexityのLLMをブラウジングに統合したウェブブラウザだ。Chrome等と同じChromiumプラットフォームをベースにしており、従来の検索ボックスをPerplexityのAI検索エンジンに置き換えている。Perplexityは「クリックやスクロールのないネット体験の時代がやってくる」というビジョンを掲げ、新しいブラウジングを実現するとしている。
Cometの主要なAI機能は多岐にわたる。ユーザーは閲覧中の任意のページについて質問し、画面上の内容に基づいて回答を得ることができる。YouTubeのトランスクリプトやGoogle Docsのようなライブコンテンツでも機能し、回答には引用元へのリンクが提供される 。これは、当初から出典が分かることでハルシネーションを回避できるPerplexityの特性だ。
Perplexity AIによれば、注目すべきは、その高度なエージェント機能だそうだ。ユーザーの許可を得ることで、Cometは受信トレイやカレンダーアプリと連携し、メールやカレンダーイベントの要約、メッセージの作成、会議招待の管理、予約のスケジュール設定などをユーザーに代わって行える 。オンラインショッピングや旅行の予約においても、複数のウェブサイト間で価格や機能を比較し、最適な選択を支援する。すでに、インストールして使い始めたが、まだ怖くて エージェント機能を使う気にならない。
さらに、Cometには広告ブロッカーが内蔵されており、プライバシーと透明性にも注力している。これは、Google Chromeとは対照的だ 。広告企業のGoogleとは違った立場だからということだろう。
OpenAIの「ChatGPT Agent」とブラウジング機能
OpenAIは、「ChatGPT Agent」を発表し、ウェブを検索し、ユーザーに代わってタスクを実行できるツールとして提供しているという 。ChatGPT は全く使っていないので良く分からない。ウェブをスクロール、クリック、タイプできる「Operator」と、情報を検索・収集する「Deep Research」という、これまでの二つのツールの能力を統合したものだそうだ。
ChatGPT Agentのタスク実行能力は、カレンダーの確認、会議の要約、食事の計画と材料の購入、競合分析とスライドデッキの作成、コードの実行、データ分析、編集可能なスライドやスプレッドシートの提供など、幅広い複雑なタスクを含む。また、GmailやGithubなどのアプリと連携する「ChatGPTコネクター」も利用可能だ 。
OpenAIの戦略は、まず基盤となる強力なAIモデルとエージェント能力を確立し、それを様々なインターフェース(チャット、API、そして将来的には専用ブラウザ)を通じて提供するという「エージェントファースト」のアプローチを取っているようだ。これは、既存のブラウザベンダーが自社ブラウザにAIを統合するアプローチとは逆のアプローチだ。今まで自社のブラウザを持っていなかったから自然なアプローチだ。噂されれているように、OpenAIが専用のAIブラウザを市場に投入すれば、既存のブラウザ市場に強力な挑戦者となることだろう。
AIが変えるブラウザの役割と新たな競争軸
1990年代後半から2000年代初頭にかけての第一次ブラウザ戦争は、主に「機能の豊富さ」「表示速度」「JavaScriptなどのウェブ標準への対応」、そして「無料化」が競争の軸だった 。
しかし、現在のAIブラウザ競争は、もはや単なる「ウェブページの表示」や「検索」の効率化に留まらない。その中心にあるのは、AIがユーザーの意図を理解し、能動的にタスクを実行する「エージェント性」だ 。
- エージェント性 ブラウザが単なるツールではなく、ユーザーの指示に基づいてウェブ上の複数のステップを自動で実行する「代理人」となる能力が求められている 。
- パーソナライゼーション ユーザーの閲覧履歴、興味、習慣を学習し、コンテンツの提案やタスクの支援を個別最適化する能力が重要視されている 。
- タスク自動化 複雑なウェブベースのタスク(予約、購入、情報比較、メール作成など)を、自然言語の指示だけで完了させる能力が競争の鍵となる 。
- プライバシーとセキュリティ AIがユーザーの機密データに深くアクセスするようになるため、データの収集、利用、保管に関する透明性、ユーザーコントロール、そしてセキュリティ対策の堅牢性が極めて重要な競争軸となっている 。
この変化は、単なる技術の進歩による機能追加ではなく、ブラウザの価値提供の質が変化していることを意味する。今のブラウザに求められることは、いかにユーザーの意図を理解し、エージェントとして行動し、その過程でユーザーのプライバシーと安全を守るかが問われているといってよいだろう。
第二次ブラウザ戦争による市場への影響
AIブラウザの競争は、既存のブラウザ市場シェアに大きな影響を与える可能性がある。
- Microsoft Edge Windowsエコシステムとの深い統合 と、マルチタブ分析や自動タスク実行といったエージェントAI機能の先行導入 により、EdgeはGoogle Chromeが支配する市場での差別化を図り、シェア回復を目指す。特に、Microsoft 365との連携は、企業ユーザーに対して大きな強みとなる 。
- Google Chrome 圧倒的な市場シェアを持つChromeは、Geminiとの連携を通じて、既存ユーザーベースにAI機能を提供することで、その地位を盤石にしようとしている 。Googleの強みは、検索、広告、Androidなど、広範なデジタルエコシステム全体でのAI統合能力にある 。
- Perplexity AI Comet 高度なAI検索とエージェント機能に特化し、引用元の明示による透明性とプライバシーコントロールを重視することで、一部のパワーユーザーやプロフェッショナル市場での地位確立を目指している 。
- OpenAI ChatGPT Agent 最先端のLLM技術を武器に、汎用的なエージェント能力を追求している。近い将来には専用のAIブラウザの投入も計画されており 、既存のブラウザ市場に強力な挑戦者として参入する。
ビジネスモデルの変化
AIブラウザの高度な機能は、従来の広告モデルだけでなく、サブスクリプションモデルを通じて収益化される傾向にある。Microsoft EdgeのCopilot Modeは期間限定無料であり、将来的には「Copilot Pro」サブスクリプションが必要になる可能性が高い。GoogleのGemini in Chromeや高度なAI Mode機能は、主に「Google AI ProまたはUltraサブスクライバー」向けに提供されている 。Perplexity Cometの全機能を利用するには、月額200ドルの「Perplexity Max」プランへの加入が必要だ 。OpenAIのChatGPT Agentも、Pro、Plus、Teamユーザーにメッセージ制限付きで提供されている 。 これは、当然と言えば当然で、サブスクリプションで提供されているAI機能がブラウザでは無料はあり得ない。
AI時代のブラウザは、単なる情報の窓口ではなく、ユーザーの行動を効率化し、パーソナライズし、そして保護するエージェントとなることを目指している。この進化は、ウェブの未来を形作る大きな鍵となるだろう。そこを、どの企業が握るかで、これまでのGoogle一強時代のを変えるのか、続くかが決まる。