AIサービスのエージェント化

by Shogo

インターネットの利用方法が、今、大きな転換期を迎えている。これまでは、検索エンジンにキーワードを入力し、表示されたリンク集の中から関連性の高そうなウェブサイトをクリックして情報を探し出すのが一般的であった。

しかし、主要なAIサービスがエージェント機能を強化し、ブラウザとの連携を深めようとしている。ユーザーはリンクのリストではなく、AIによるパーソナライズされた回答やサービスを得るようになりつつある。この変化は、インターネットの利用方法を大きく変えるだろう。

従来の「検索」から「対話とタスク自動化」へ

従来のインターネットアクセスは、いわば「情報の図書館」にアクセスし、自分で目的の「本」を探し出す作業に似ていた。検索エンジンは、その図書館の「蔵書リスト」を提供し、ユーザーはリストの中から「本」を選んで内容を確認する。しかし、現代のAIエージェントは、ユーザーの代わりに「本」を探し出し、その内容を要約したり、さらに進んでその情報を使って具体的なタスクを実行したりする能力を持っている。

例えば、「東京で最高のイタリアンレストラン」を探したい場合、これまでは検索結果のリンクをいくつかクリックし、レビューやメニューを確認し、自分で予約サイトにアクセスする必要があった。しかし、AIエージェントを使えば、ユーザーは単に「東京で予算〇円以内の、グルテンフリーのオプションがある評価の高いイタリアンレストランを予約して」と話しかけるだけで、AIエージェントがユーザーの好みや制約条件を理解し、インターネット上の情報を収集・分析し、空席状況を確認して、最終的に予約まで完了させてくれるようになる。

これは、単なる情報提供ではなく、ユーザーの意図を汲み取り、一連の行動を代行する「エージェント」としての機能である。タブを開き、URLを入力し、何度もクリックする代わりに、ユーザーはAIエージェントとの自然な対話を通じて目的を達成できるようになる。

主要AIサービスによる「エージェント化」の進展

このようなAIエージェントによるインターネット利用の変革を牽引しているのが、OpenAI、Google、Perplexity、Microsoftといった主要なAIサービス企業だ。

OpenAIのChatGPTは、自然な対話による情報検索や文章生成能力で世界を席巻した。ChatGPT.comは現在、Google.com、YouTube、Facebook、Instagramに続く、世界で5番目にアクセス数の多いウェブサイトとなっており、多くのユーザーがリンクをたどるのではなく、AIとの対話を通じて情報を得たり作業を行ったりする。さらに、OpenAIは、Assistant APIやGPTsといった機能を通じて、外部サービスとの連携や特定のタスク実行を可能にするエージェント機能の強化を進めている。

Perplexityは、「質問応答エンジン」として、検索結果のリンクを示すだけでなく、インターネット上の情報をまとめて回答を生成することに特化してきた。そのPerplexityが、評価額140億ドルを目指して資金調達を行い、さらに独自のウェブブラウザ「Comet」の開発を進めているというニュースは、この分野におけるAIエージェントの重要性の高まりを象徴している。Perplexityは、Cometを通じて、エージェント機能とタスク自動化能力をブラウザ体験に組み込むことを狙っていると見られている。これは、既存の検索エンジンやブラウザの優位性に挑む動きであると言える。

もちろん、既存のテクノロジー大手であるGoogleやMicrosoftも、この変化に対して手をこまねいているわけではない。彼らは、自社のブラウザにAI機能を統合することで、自社のプラットフォームの優位性を維持しようとしている。Microsoft Edgeには「Copilot in Edge」としてAI機能が組み込まれており、ウェブページの内容の要約や関連情報の検索などを対話形式で行うことができる。GoogleもChromeブラウザや検索機能にAIを統合する取り組みを進めている。これらの機能は、ブラウザを単なる「ウェブサイトを表示する窓」ではなく、「AIによる副操縦士(Copilot)」のような存在に変えようとする試みである。長期的に見れば、ブラウザという概念そのものが、AI化され、パーソナライズされ、常時稼働するAIエージェントの中に吸収されていく可能性も考えられる。

ウェブサイトの役割の変化

AIエージェントの台頭は、マーケティングやビジネスにとって、無視できない大きな影響をもたらす。最も大きな変化の一つは、顧客が情報やサービスにアクセスする方法が変わることである。

eコマースを例にとると、これまで企業は魅力的なウェブサイトを構築し、SEO対策やオンライン広告によって顧客を誘導し、サイト内で商品を選んでもらい購入を促してきた。しかし、もし顧客がAIエージェントに「〇〇(商品名)を一番安く買える店で注文して」と依頼し、AIエージェントがインターネット上の価格情報を比較し、最安値のショップのAPIを直接呼び出して注文を完了させたとしたらどうだろうか。顧客は企業のウェブサイトを訪問することなく、購入を済ませてしまう可能性がある。しかも、そのAIは、ユーザーの購入履歴や普段の好みを理解している理解しているから、その選択はユーザーにとっても適切である可能性が高い。

これは、デジタルマーケティング手法の効果を低下させるだろう。AIエージェントは、人間の視覚的な魅力やウェブサイトのデザインよりも、機械が理解しやすいデータ形式やAPI連携の容易さを重視するようになるかもしれない。このために、企業は、人間の顧客だけでなく、AIエージェントに対しても自社の製品やサービスを「発見」してもらい、「理解」してもらい、「選んでもらう」ための最適化、すなわち「AI相互運用性」や「機械可読性」への最適化を迫られることになる。これまでのSEOやインフルエンサーマーケティング、視覚デザインといった従来の戦略は、そのあり方を見直す必要が出てくるだろう。

変革を支える技術と未来への展望

このようなAIエージェントによるインターネットの変革を可能にしているのは、GPT-4やGemini、Claudeといった高性能な大規模言語モデル(LLM)の進化である。これらのLLMは、人間の言葉を理解し、複雑な文脈を把握し、記憶を保持しながら一連のタスクを実行する能力を高めている。しかし、AIエージェントが真に機能するためには、単に言葉を理解するだけでなく、外部のアプリケーションやサービス、デバイスと連携する能力が不可欠である。その連携を可能にするのがAPI(Application Programming Interface)である。APIは、異なるソフトウェア同士が情報をやり取りするための「窓口」のようなものであり、AIエージェントはAPIを通じて様々なサービスと接続し、タスクを実行する。

現在進行中のAIエージェントとブラウザ連携の進化は、インターネット黎明期のブラウザ戦争にも例えられることがある。当時はNetscape NavigatorとMicrosoft Internet Explorerが覇権を争い、ウェブサイトの表示方法や機能が大きく変化した。その後、インターネットビジネスの入り口は、ブラウザから、Yahoo!などのポータルに移り、今のGoogle検索に移った。この過程で、インターネットビジネスを握る中心会社は移り変わってきた。

今回の「AIブラウザ戦争」とも呼べる競争は、「情報の探し方」と「サービスの利用方法」を根本的に変え、その結果、インターネットビジネスの中心を握るための、新たな戦争の開始と言えるのである。

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