AGIの実現可能性

by Shogo

この数年のAIの進化は目覚ましい。ChatGPTのような生成AIの登場は、生活や仕事のあり方を大きく変えつつある。こうした劇的な進歩を目の当たりにし、「AGI(汎用人工知能)の実現は間近だ」と考える人も増えている。私も、その一人だが、NYTの記事で、AIの現在の技術ではまだ不十分でAGIの早期実現は難しいという内容の記事があった。

AGIとは何か

AGIは「Artificial General Intelligence」の略称であり、特定のタスクに特化した現在の「特化型AI(Narrow AI)」とは異なり、人間と同等かそれ以上の幅広い知的能力を持つとされる人工知能を指す言葉である。学習、理解、推論、問題解決、創造性など、人間が行う多様な知的活動を自律的にこなすことができるようになることを意味する。

しかし、記事によると、AGIには未だに学術的にも産業界でも統一された明確な定義は存在しないという。「人間レベルの知能」ということが想定されているが、「人間レベル」自体が非常に曖昧な概念であり、知能を測る基準(IQテストなど)も万能ではないため、AGIが「いつ、どのように実現したか」を判断することは本質的に難しいということが書かれていた。

AGIの早期実現の意見

OpenAIのサム・アルトマン、Anthropicのダリオ・アモデイ、イーロン・マスクといったテクノロジー界のリーダーたちは、これまでにAGIの早期実現を予測している。

彼らがこうした楽観的な見通しを持つ背景には、近年のAI技術の急速な進歩がある。特に、大規模言語モデル(LLM)に代表される生成AIは、膨大なテキストや画像データからパターンを学習し、人間が作成したようなコンテンツを生み出す能力を獲得した。これは、過去のコンピュータ技術がコードを一行ずつ書いてアプリケーションを開発していた時代と比較すると、学習によって自律的に能力を高めるという点で根本的に異なっている。

記事によれば、この進歩を支えているのが「スケーリング則(Scaling Laws)」と呼ばれる考え方だ。これは、モデルの規模(パラメータ数)、学習に用いるデータ量、計算資源を増加させることで、AIの性能が継続的に向上するという経験則に基づいている。また、正解が明確なタスクにおいて試行錯誤を通じて最適な行動を学習する「強化学習」のような手法も、特定の領域(例えば碁のようなゲーム)で人間を超える性能を実現しており、汎用的な知能への足がかりになると期待されている。

これらの技術の組み合わせと、それに巨額の投資が行われている現状を見ると、現在の技術の延長線上にAGIが見えている、あるいは少なくともその道のりは以前考えられていたよりもはるかに短い、と彼らは考えている。私も、そう思っていた。つまり、近日中には、何台ものAIモデルが連結して、お互いがお互いを教育して、休みなく自己改良を続ければ、能力の向上は飛躍的に進むと思っている。

懐疑論

しかし、記事によれば、AGIの早期実現論に対しては、多くのAI研究者や専門家から懐疑的な意見がでているそうだ。例えば、Cohereの創業者で、GoogleでAIを研究していたニック・フロストや、AI分野で権威のある学術団体であるAAAI(Association for the Advancement of Artificial Intelligence)の調査結果は、AGIの早期実現に否定的だ。

  • 現在のAI技術の限界  現在のLLMは、突き詰めれば「次に最も可能性の高い単語(あるいはピクセル)を予測するシステム」にすぎないという指摘がある。これは、人間が行うような深い理解や、原因と結果を関連付ける因果推論とは根本的に異なっている。
  • 人間知能の多面性  人間の知能は、単に計算能力やパターン認識能力だけでなく、変化し続ける予測不可能な現実世界に対応する能力、全く新しいアイデアを創造する能力、皮肉やユーモアを理解する能力、そして共感や倫理観といった要素を含んでいる。現在のAIは、数学やプログラミングといった特定の、比較的ルールが明確な領域では人間を超える性能を示し始めているが、これらの人間的な知性の側面を捉えることは非常に難しい。
  • 物理世界との乖離  人間の知能は身体を持ち、物理世界と相互作用することで培われる。フライパンの上でパンケーキをいつひっくり返すかを知っている、といった日常的な感覚や知識は、単にデジタルデータだけを学習する現在のAIにはないものである。ヒューマノイドロボットの研究も進められているが、物理世界での学習はデジタル空間での学習よりもはるかに難しく、時間もかかる。
  • 必要な「大きなアイデア」 現在のAIは、主にニューラルネットワークと大量のデータ、計算資源によって実現されている。しかし、懐疑的な研究者たちは、AGIを実現するためには、現在の技術の延長線上ではない、全く新しいアーキテクチャや学習方法といった「大きなアイデア」が必要だと考えている。そして、そのようなブレークスルーがいつ生まれるかは誰にも予測できない。現在のパラダイムの先にAGIがあるかは不確かであり、新しい何かが必要かもしれない。
  • 過去の予測の歴史  AIの歴史を振り返ると、過去にも「数年以内に人間レベルの知能が実現する」といった楽観的な予測が何度もなされてきたが、その多くは外れてきた。1950年代後半にAIという分野が誕生した頃でさえ、研究者たちは数年以内に人間レベルの知能が実現すると考えていた。

AGI実現可能性

記事を読んでの素人考えでは、AGI実現可能性は、現在のAI技術がもたらす進歩が、AGIが要求する能力(つまり人間の能力)との間のギャップを埋められるかどうかということだ。それは、人間の能力とは何かということだ。

現在のAIは驚異的な速度で進化しており、これまでは人間しかできないと考えられていたタスクを次々とこなすようになっている。しかし、これはあくまで、コーディングやある一定の推論などの特定のタスクにおける性能向上であり、人間のように多様な状況に柔軟に対応し、未知の問題を解決する「汎用性」とは異なる側面が大きいのは事実だ。記事の中では、フライパンの上で上でパンケーキをいつひっくり返すかというような例で、人間の知能は物理的な世界と結びついているという明らかな違いがあり、その違いが人間にしかできないことにつながっていると述べられていた。

AGIの定義自体が曖昧であることも、実現時期の予測を難しくしている。「人間レベルの知能」とは具体的に何を指すのだろうか? すべての領域で人間を超える必要があるのか、それとも特定の重要な領域で人間並みの能力があればよいのか。この基準が定まらない限り、「AGIが実現した」と判断すること自体が主観的なものにならざるを得ない。現在では、チューリングテストももはや有効ではないかもしれない。

AGIがいつ、どのような形で実現するかは、今後の基礎研究の進展、新しい技術アイデアの発見、そしてそれに伴う大規模な開発努力にかかっているのだろう。しかし、すでに、AIの急速的な進化に立ち会っていることは間違いない。AGIの実現は、人間とは何かという哲学的な問いも多く含んでいるため、予測できないということが個人的な見解だ。

昔読んだフレドリック・ブラウンのショート小説に、「神」という作品があった。その小説では、はるか遠い未来に人類は宇宙に広がり多くの星に居住している。その時に、それぞれの星の大型コンピューターを、初めてネットワークでつないだ。そして、そのネットワークに繋がれたコンピューターにした最初の質問は、「神は存在するか」だった。すると、コンピューターは、答えた。「もはや存在する」だ。

AGIの実現は人間とは何かという問に答えられなければ、答えは無い質問なのかもしれない。だが、人間と同じかは別にして、これまで人間にしかできないと思われてきたことの多くが、早く簡単にAIに置き換えられてゆくことだけは間違いない。

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