アメリカは、大きな政治的変革の時期にある。様々の既成の習慣や制度の根本的な見直しがされれている。これは、国の理念の徹底的な破壊と再構築にあるようだ。
その一例が、広告業界にも起こっている。オムニコムとインターパブリックという巨大広告会社の合併をめぐり、連邦取引委員会(FTC)が「政治的理由で広告を拒否すること」を禁止するという異例の規制を検討しているとNYTで報じられた。経済的な判断も政治的変革の対象になっているようだ。言ってしまえば、たかが広告会社の合併に政治的判断が必要かと読んでみたが、話は深刻で、アメリカで起きていることの根深さを感じた。
オムニコムとインターパブリックの合併は、年商2兆円を超える巨大広告会社の誕生を意味する。しかし、この合併審査の過程で、FTCは「政治的な理由で、保守的なSNSやウェブサイトなどの、特定のプラットフォームへの広告出稿を拒否してはならない」という条件を課す可能性を示したようだ。
この背景には、トランプ政権が「企業が保守的な意見やコンテンツを持つメディアを不当に差別している」と強く問題視していることがあるという。政権は、企業の広告出稿方針が政治的に偏ることで、特定の思想や立場が経済的に圧迫され、言論の多様性や公正な競争が損なわれると懸念しているというのだ。
近年、SNSプラットフォーム上で暴力的・誤情報・分断を助長するようなコンテンツが増加する中、広告主や広告会社は「ブランドの安全性」を理由に、特定のメディアへの広告出稿を控える動きが強まっている。特に、イーロン・マスクが買収した「X(旧Twitter)」では、多くの大手広告主が広告を一時停止し、業界団体も出稿停止を呼びかけるなど、広告ボイコットが現実に起きている。それは、当然だろう、人種差別やネオナチの投稿に広告が表示されたら大問題だ。
一方で、FTCやトランプ政権は、こうした広告ボイコットが「違法な共謀」や「政治的差別」にあたる可能性があるとして調査を強化しているという。今回の合併審査でも、広告会社が政治的理由で広告を拒否することを制限することで、市場の公正な競争や言論の多様性を守ろうという動きが起こっているということのようだ。だが、言論の自由にも限度があるし、極端な意見と距離を取ろうとすることは、広告主や広告会社にとって自然なことだ。
当然、広告会社や広告主は「どのメディアに広告を出すかは本来、自由に決めるべきだ」と主張する。ブランドイメージを守るため、暴力的・誤情報が多いプラットフォームへの出稿を控えるのは、当然のリスク管理だという立場だろう。しかし、政治的な圧力が強まることで、こうした自主的な判断さえも規制の対象となるということが、アメリカで起こっていることだ。
今回のFTCの動きは、アメリカの広告業界も含めた、すべての分野が、これまで経験したことのない政治化された環境に突入したことを示している。今後、広告会社はブランドセーフティと政治的中立性の間で難しい意思決定を迫られることになる。
それほど、政治の影響力がかつてないほど強まっているということのようだ。これは、従来のアメリカで起こったことはなく、権威主義的な国では当たり前のことだった。時代は変わろうとしている。