スタジアムのAI化

by Shogo

AIのことしか書いていない気がするが、今朝も目についたのはスポーツ施設のAI化だ。アメリカでは、スポーツ観戦体験が、入口から売店、イベントの切り替えまで刷新されているそうだ。

ドジャースの優勝でワールドシリーズの盛り上がりの余韻が冷めやらないから、MLBの話題。MLBでは、顔の事前登録者が歩く速度で入場できる方式が広がり、フィラデルフィアのCitizens Bank Parkなど多くのスタジアムでも専用レーンが運用されているそうだ。有料道路の入口のような感じなのだろう。家族や友人と同時に入れるため流れが止まりにくく、開門直後でも立ち止まる場面が減るから面倒さが軽減されているようだ。

顔認証は、日本ではオリンピックや特殊なイベントではトライアルが行われたが、まだまだ普及段階にない。紙のチケットのもぎりはいつまでも見られそうだ。

それ以外にも、スタジアムのAI化がアメリカでは多くの面に適用されている。かつてスポーツ観戦はスタジアムで試合を見ることそのものだった。だが、AIによって変わりつつあるのは、観戦の前後も含めたトータルな顧客体験となりつつあるということのようだ。スタジアムは単なる観戦の場からデータ・マーケティング装置へと進化しつつあるのだという。

2024年以降、MLBは球場への入場に顔認証を導入し、観客が事前に自分の顔データを登録しておけば、チケット提示やスマホ操作なしでスムーズに入場できる仕組みを導入した。球団によってはキャッシュレス決済やメンバーシップ特典とも連動し、顔がチケットになる体験が稼働している。売店に長く並ぶ必要もなく、アメリカでは面倒なアルコール販売の年齢確認も、この顔認証で簡略化されているそうだ。

そのようなチケット関連は序の口のようだ。AIは、スポーツ観戦そのものを変えている。単に効率化ではなく、ファン体験の構造や、球団・スポンサーのビジネスモデルを根本から再設計している。

スマートスタジアムが生み出す「体験のデータ化」

代表的な事例のひとつが、米ロサンゼルスの BMOスタジアム だ。MLSのロサンゼルスFC(Los Angeles Football Club)と女子リーグNWSLのエンジェル・シティFC(Angel City Football Club)の本拠地として知られる。観客の動線分析、入場ゲートのAIカメラによる混雑予測、アプリ連動のフードオーダーシステムなど、すべての行動がリアルタイムにデータ化されている。AIは観客がどのタイミングで席を立ち、どのブースで滞在するかを学習し、試合ごとに最適な配置や広告露出を自動調整する。

同じくAI活用が進むのが、デンバーの Empower Field at Mile High。NFLのデンバー・ブロンコス(Denver Broncos)の本拠地だ。ここではAIを活用した「予測清掃」システムが稼働しており、観客の流入状況や飲食エリアの混雑をセンサーが検知、どのエリアを優先的に清掃・補充すべきかを自動判断する。また、ファンがスマホアプリで送信する「快適度フィードバック」もAIで分析され、試合中の温度調整や空調制御にも反映されている。スタジアム全体が「学習する空間」と化している。

フィラデルフィアの Citizens Bank Park では、MLBフィリーズ(Philadelphia Phillies)の本拠地として、AIがチケット販売とファンマーケティングを統合。来場頻度、購入履歴、SNSの発言内容などをもとに観客をセグメント化し、試合前後のプロモーションを自動的にカスタマイズする。AIは「どのファンがどのタイミングで何を買うか」を予測し、広告やメニュー表示をパーソナライズする。観客一人ひとりが、まさにデータ化された顧客として扱われる時代だ。スタジアムのデータが広告配信まで使われるというのは想像もできなかった。

AIによってスタジアムは快適になり、混雑は減り、フードやグッズの購買もスムーズになった。だがその一方で、ファンの行動や感情までがデータ化されている点は見逃せない。表情解析による観戦中の感情認識、音声センサーによる歓声のボリューム解析、SNSとの連携による熱量スコアなど、球団はファンの熱狂をも分析対象にしているというから驚きだ。AIによるスポーツ観戦の変化は、観客を単なる体験者から分析可能なデータリソースへと変えてしまったとも言える。

この動きの背後には、AIによってスポーツが「プラットフォーム産業」へと転化していく構造があるのだそうだ。スタジアムはもはや試合を観る場所ではなく、購買、広告、ブランド体験がリアルタイムに最適化されるマーケティング空間となりつつある。AIはそのすべてを統合し、企業スポンサーやメディア、チーム運営の利害をデータで結びつける。言い換えれば、スポーツはAI時代のプラットフォームとなりつつある。

AIはファンの心を読む技術であると同時に、ファンの行動を設計する技術として進化している。そのバランスをどう取るか。まさに、スタジアムの中はディストピア小説の監視社会となってえいるといっても良い。そこでは、AIによる個人データ管理の新たな課題も生まれつつある。利便性とプライバシーの狭間で、透明性のあるシステムが今後問われるだろう。

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