気がつくと、多くのサブスクを契約して毎月支払っている。様々な仕事・ユティリティアプリ、音楽、電子書籍、フィットネスアプリ、クラウドストレージ、語学学習、映像配信。特に映像配信は複数だ。一つひとつは月数百円でも、まとめると家計を圧迫している。それでも止められない理由は単純で、プラン変更の手順がわからない、解約ページが見つからない、あるいは「今月だけは見たいドラマがあるから」という逡巡だ。こうした小さな我慢が積み重なると、私たちは気づかぬうちにサブスクという名の契約関係の管理者にさせられている。
企業がサブスクに賭ける合理性
サブスクの代表例にAdobeがある。AdobeはかつてPhotoshopやIllustratorをパッケージで販売し、買い切りの大きな売上を立てていた。しかしその収益は景気や買い替えサイクルに左右され、売上・利益が期ごとに大きく変動する。2012年にCreative Cloudを軸としたサブスクリプションモデルに舵を切ったのは、サブスク課金で予測可能な収益を確保し、投資計画を立てやすくするという明確な戦略があったためだ。企業にとってサブスクは、①継続課金で将来の見通しが立つ、②初期費用が下がり新規顧客を獲得しやすい、③違法コピーや旧版利用の空白を減らせる、④クラウド連携で利用データを取得し、体験を最適化できる。この4点の理由だ。市場が不確実なほど、予測可能性は投資家への説得材料になる。売上が平準化され、経営の安定性も高まる。
サブスクへの移行は株主への説明でも効果的で、Adobeの場合は2013年に一時売上が8%ダウンしたものの、その後は前年比20%増という成長軌道に乗った。収益構造の転換は、単なる価格設定の変更ではなく、企業と顧客の関係を売り切りから継続へと組み替える仕掛けだ。
管理コストの増殖
だが、生活者の側に立つと、サブスクは、便利な扉というよりも、終わらない契約として立ちはだかる。一つ一つの料金は小さいが、更新日、無料期間、プラン差、家族共有、解約導線と管理の手間が積み重なる。サブスク疲れの正体は、支払い以上にこの管理コストの増殖かもしれない。実際、株式会社アスマークが2025年に行った調査では、解約理由として「料金・コスト」を挙げた人は約70%に達しており、現利用者の改善希望では約55%だったのに対し、解約済みの人では割合が大幅に上昇している。費用だけでなく、契約を管理し続ける疲労感が、最終的な離脱の引き金になっていると考えられる。
さらに厄介なのは、この疲れが解約の手間を考えると増幅することだ。加入は数クリックで済むのに、解約は別ページや電話窓口へ誘導され、手順が遠回りになる。重要な条件は奥に沈められ、操作は複雑化される。OECDはこうしたオンラインの「ダークパターン」として、解約を妨げる妨害・障害や、重要情報の開示を遅らせる手法などを分類し、設計と収益モデルが結びつきやすいことを指摘している。米国では2025年1月にFTCが「クリック・トゥ・キャンセル」規則を施行し、契約と同じ簡単さで解約できるよう義務化したが、日本では解約方法の明示は、努力義務にとどまり、規制は不十分なままだ。この点は、もう少し行政が動くべきだろう。
関係の商品化と疲れの意味
サブスクとは、商品ではなく、関係を売る装置だ。関係が課金されると、私たちの時間と注意は継続率という企業のKPIに計上される。疲れは、生活者の怠惰ではなく、生活が数値目標として計算される経済システムにある。必要なのは節約術だけでなく、入り口と同じくらい出口を簡単にすることを企業側に求めることと、契約を減らすことが、楽しみを減らすことにならないように、サブスクしているサービスの評価を厳密に行うことだろう。そのサブスク契約が日常をどれだけ豊かにしているかを考えることだ。
