以前より報道されていたChatGPTの広告プランが発表された。OpenAIは、ChatGPTで、無料版とGoプラン(月額8ドル)で広告のテストを開始した。会話の下部にスポンサー付きの商品やサービスを表示し、明確にラベルで区別するそうだ。健康やメンタルヘルス、政治といった話題では広告を出さないそうだ。また、ユーザーのプライバシーは守り、得られたデータは売らなし、ユーザーはいつでも広告のパーソナライゼーションをオフにできるという。もちろん、Plus以上の有料プランには広告を表示しない。
新設されるGoプランは、日本でも、1月17日に開始された。料金は月額1,500円に設定され、無料版の10倍の利用制限アップ、メッセージ送信や画像生成の拡張、メモリ機能の強化を提供するという。無料版とPlusの月額20ドルの間を埋める存在として、2025年8月にインドで先行展開され、効果を確認したうえで全世界に拡大された。このGoプランにも広告が載る。つまり、広告なしでChatGPTを使うには、最低でもPlusに入る必要がある。
気になるのが、アメリカでは8ドルで、日本では1,500円という設定だ。多くのAIサービスが、ドル払いだが、GOプランは日本円建てだ。しかも、1ドルが187.5円換算だ。OpeenAIは円安が進むと見ているのだろうか。
しかし、これは単なる「広告付き」という表面的な変化ではない。むしろ、OpenAIというAIのパイオニアが、収益構造そのものを再構築しようとする試みと言えるだろう。
赤字と向き合う現実
2025年7月から9月の3か月間で、OpenAIは115億ドル、日本円にして約1.7兆円の赤字を出した。同年の年間売上は130億ドルと予測されながら、支出は220億ドルに達する見通しで、1ドル稼ぐごとに1.69ドルを使っている計算になる。2026年には年間損失が140億ドルに膨らむ可能性があり、2023年から2028年の累積損失は440億ドルに達すると見られている。
コストの大部分は、AIモデルのトレーニングと推論に費やされる計算資源にある。データセンター、高性能GPU、世界トップクラスのAI研究者への人件費など、すべてが桁違いだ。現状の収益モデルは、個人向けサブスクリプションが約75%を占め、企業向けサービスは成長途上にある。しかし、このままでは持続可能とは言い難い。この辺りは、B2Bで稼いでいるAnthropicとの違いだ。このような新しいビジネスで、B2Cを開拓するには大変だ。一部のイノベーターを獲った後で、マスになれるかが勝負で、多くのビジネスはここで失敗してきた。その点ではB2Bはある程度は確実だ。
広告導入は、この財務的圧力への対応だ。OpenAIは2026年から無料ユーザーの収益化により10億ドルの新規収益を見込み、2029年には約250億ドルまで成長すると予測している。広告という新たな収益の柱を立てることで、無料層を維持しながら、より多くのユーザーにAIへのアクセスを提供するというビジョンを保とうとしているとも言える。
多層化する料金体系の意味
ChatGPTの料金プランは、今や四つの階層に分かれた。無料版、Go(月額8ドル)、Plus(月額20ドル)、Pro(月額200ドル)。それぞれに異なる利用制限とアクセス権が設定されている。この階層化は、ユーザーを細分化し、それぞれのニーズと支払い能力に応じた選択肢を提示する戦略だ。
無料版は、気軽にAIを試したい層や、たまにしか使わない層にアクセスを保証する。だが利用制限は厳しく、GPT-5.2は5時間で10メッセージ程度、画像生成は1日3枚まで。Goは、日常的に使いたいが高額な料金は避けたい層を狙う。Plusは、早期アクセスや高度なモデルを求めるパワーユーザー向けで、Proは無制限に近い使い方を必要とするプロフェッショナル層を対象にする。私個人も含めて、多くのユーザーは無料版のGPT-5.2は5時間で10メッセージ程度、画像生成は1日3枚までで十分なような気がする。
この抗菌体系の構造は、マーケティング的には、フリーミアムとサブスクリプション、そして広告を組み合わせたハイブリッドモデルの典型だ。予測可能な収益を確保しつつ、広告で無料層からも収益を得る。一方で、高額プランでは広告を排除し、プレミアム体験を提供する。こうした複数の収益源を持つことで、リスクを分散し、市場の異なるセグメントから収益を引き出そうとしている教科書的なアプローチだ。
会話型広告という未知の領域
OpenAIは、広告を「静的なメッセージやリンクを超えたもの」にしたいと発表で述べている。会話型インターフェースでは、ユーザーは広告に対して質問を投げかけ、その場で情報を深掘りできる。たとえば、旅行プランを相談している最中にホテルの広告が表示されたとして、ユーザーはそのまま「このホテルの周辺に観光地はある?」と尋ねることができるかもしれない。
これは従来の広告とは異なる。というか、そのような発想は、従来の広告にはできなかったし、無かった。バナーやリンクをクリックして別のページへ飛ぶのではなく、ChatGPTの広告では対話の流れの中で商品やサービスについて知り、判断する。中小企業にとっては、大手と同じ土俵でユーザーと接触できるチャンスになる。AIツールが競争環境を平準化し、誰もが質の高い広告体験を生み出せるようになる、とOpenAIは主張する。
しかし、この試みがユーザーにどう受け入れられるかは未知数だ。広告が対話の流れを妨げ、ユーザー体験を損なうリスクもある。また、広告が会話に溶け込みすぎると、どこまでがAIの回答で、どこからが広告なのか、境界が曖昧になる恐れもある。OpenAIは「回答は広告の影響を受けない」と明言しているが、その信頼をどう維持するかが問われるだろう。心情的に、相談を持ちかけた相手から、売り込みを受けた時の気分は、あまり良くないと言わざるを得ない。
事業戦略としての意味
広告導入と料金体系の多層化は、OpenAIの事業戦略における大きな転換を示している。これまで同社は、最先端の技術開発と、その技術へのアクセスを有料プランで提供することに注力してきた。だが、巨額の赤字と競合の台頭により、収益モデルの多様化が急務となっている。Googleのように日銭が別の事業から流れ込んでいる会社とは違うから切実だ。
広告は、サブスクリプションだけでは捉えきれない無料ユーザーという巨大な層を収益化する手段としては間違いではない。週間7億人が利用するChatGPTにおいて、無料層からの収益が年間10億ドル、将来的には250億ドルに成長する可能性は、事業の持続性を大きく高める。同時に、Goプランという中価格帯の選択肢を提供することで、無料とPlusの間に存在していた「支払いたいが20ドルは高い」という層を取り込むこともできる。
ただし、長期的な焦点は依然として「対価を支払う価値がある製品を作り続けること」にあると、OpenAIは述べている。広告はあくまで補助的な収益源であり、中核はサブスクリプションと企業向けサービスだという姿勢だ。この二つの軸をバランスさせながら、どこまで成長できるかが、今後の鍵になるのかもしれない。
