今年の3月の、FIFAワールドカップ・カタール大会への出場をかけたサッカー日本代表のオーストラリア代表との試合が、DAZNのみの独占配信となったために、契約者以外は、その大事な試合を見ることができなかった。これを受けて、イギリスと同様の、スポーツ・イベントの「ユニバーサル・アクセス権」の議論が活発化している。
イギリスの「ユニバーサル・アクセス権」は、政府が指定する国民の関心の高いスポーツ・イベントについては、有料放送による独占放送を禁止するものだ。その対象になるイベントを「クラウンジュエル・リスト」として列挙している。
リストはカテゴリーAとカテゴリーBに分かれており、カテゴリーAは国民の95%が視聴できる無料のテレビ放送での生中継が求められるもの、カテゴリーBは録画あるいはハイライトが無料のテレビ放送で放送すれば良いものとなる。この国民の95%が無料でも見られるテレビ局は、BBC、ITV Channel 4、Channel 5、スコットランドのSTVウェールズのS4Cである。
この規定により有料放送事業者は、イギリス国内でおいては、指定されたスポーツ・イベントの契約者のみを対象とした独占放送はできなくなっている。この規定は、1996年の放送法の改正の際に導入されたものである。直接のきっかけとなったのは、当時の有料衛星放送のSkyが、高い契約金でスポーツ・イベントの放送権を独占したことにある。もちろん目的は、有料の契約者の獲得にある。
この「クラウン・ジュエル」のリストは、見直されており、今月、新たな変更が加えられた。新たにリストに入ったのは、FIFA女子ワールドカップとUEFA女子欧州選手権だ。
現時点のリストは以下の通り。
カテゴリーA
夏季・冬季オリンピック競技大会
夏季・冬季パラリンピック競技大会
男子FIFAワールドカップ
女子FIFAワールドカップ
UEFA欧州選手権
女子UEFA欧州選手権
FAカップ決勝戦
スコティッシュカップ決勝(スコットランド)
グランドナショナル(馬術障害)
ザ・ダービー
ウィンブルドン・ファイナル
ラグビーリーグ・チャレンジカップ決勝
ラグビーワールドカップ決勝
グループB
イングランドで行われるクリケットのテストマッチ
ウィンブルドンの決勝以外の試合
ラグビーワールドカップの決勝以外の試合、自国が関与するシックスネーションズの試合
コモンウェルスゲーム
世界陸上選手権
クリケットワールドカップの決勝、準決勝、「自国」が関与する試合
ライダーカップ、
全英オープン(ゴルフ)
そして新たに議論になっているのは、ストリーミング配信である。3月の日本代表のオーストラリア戦のように、ストリーミング配信が有料の事業者に限られる場合に、国民がストリーミングを配信を見ることができないことが問題となっている。直接のきっかけとなったのは、東京オリンピックだ。放送権を獲得したDiscoveryがストリーミングについてBBCにサブライセンスを行った。その際に、同時にストリーミングができるのが、2つまでと契約により制限を行っていた。多くの競技がストリーミング配信で見えない事が問題となった。ここから、ストリーミング配信が、既に国民の生活にとって重要なメディアになっていることを考え、通常のテレビ放送に加えてストリーミング配信の規制を行うことの検討を始めたようだ。
イギリス政府は、現在の規定は4%の世帯しかインターネット接続ができなかった1996年に作られたもので、インターネットが通常に使われるようになった現在においてはそぐわない部分があるとしている。
スポーツの放送権の販売に関しても、同様のプロセスを経てきた。インターネットの普及が始まった頃は、テレビでの放送権のおまけに、ネット配信を含むデジタル権が付いていたり、あるいは、それだけを別の事業者に販売することも行われていた。しかし、インターネットメディアが重要なメディアになった現在においては、放送権はメディアを問わずの形で、一括で販売される。
その意味でイギリス政府が、現在のテレビ放送だけに限った「ユニバーサル・アクセス権」の見直しを行うと言う事は理にかなっている。
このイギリスの動きを考えて、スポーツの公共性の観点から日本でも同様のスポーツの放送権の規定について議論が進むことが望ましい。